日産、再びホンダと交渉を◆「箱」よりも「ブランド」が大事―志賀俊之元COOからのメッセージ

歴史的な統合計画が破談となった日産自動車とホンダ。政府系ファンドのINCJ(旧産業革新機構)会長で元日産最高執行責任者(COO)の志賀俊之氏は「100年に1度の変革期に必要な合従連衡の千載一遇のチャンスを日産は逃した」と残念がる。日産は子会社化への拒否感を乗り越えてブランドを守り、未来のクルマを制御するソフトウエアでホンダと連携する方向で再交渉するべきだと主張する志賀氏に、日産不振の背景や今後取るべき道を聞いた。(時事ドットコム取材班・編集委員 豊田百合枝) ◇子会社かどうかは、ちっぽけな話 ―統合協議の破談についての感想は。 率直に言って、やはり残念だ。10年先、20年先を見ているのか、足元の数年の世界を見ているのかによって考え方は変わってきてしまう。 かつて、アナログがデジタルに取って代わられた時に、フィルムを使うカメラがなくなり、アナログの音響メーカーが皆いなくなって名前も思い出せない状況になるという、大きな時代の変化があった。 今、さらに人工知能(AI)が入ってきて、来年の2026年にはおそらくAIが人間の頭脳を超える「シンギュラリティー」が起きるのではないかと言われている。そうした中で、クルマの在り方も、大きく変わってきている。 ―ホンダから完全子会社化を提案され、受け入れられなかったと日産の内田誠社長は説明している。子会社化をのむべきだったのか。 日産が子会社化にこだわる理由が分からない。大事にするべきなのは、日産ブランドであり、日産ファン。そして事業をどうやって伸ばしていくかだ。日産ブランドや技術、日産で働く人たちへの誇りは絶対に持つべきだが、子会社かどうかなんて「箱」(会社形態)のちっぽけな話だ。 顧客や投資家、株主、従業員らに対し、より大きな価値を提供することができるのであれば、買収されることも、当然選ぶべき選択肢だ。 破談で、じゃあ日産はどうするのかという答えを出す必要がある。 ◇ソフト寡占、1兆円稼いでも生き残れない ―ホンダの三部敏宏社長は、ソフトウエアがクルマの性能・機能を決める「ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)」という新たな世界への危機感から、統合が必要と強調していた。 三部さんは、破談になったときに「日産とSDVを一緒にやりたかった」と何度も言っていた。クルマもスマホやパソコンのように、ソフトウエアをどんどんアップデートすることで、陳腐化を防ぎ、新鮮味が生かされる。米テスラや中国のメーカーが既にそういうクルマを出していて、それをやろうとすると、OS(基本ソフト)をつくらないといけない。 この一連のソフトウエア開発に莫大な投資が必要だ。ソフトウエアは、顧客からのデータに基づいてアップデートされていくのだが、このデータがどれくらい取れているか、データ量に比例して、自動車メーカーの競争力も左右されると言われている。そうすると、ホンダの400万台(年間販売)では足りない、日産を加えて700万台、三菱自動車も入れば800万台の世界になる。これぐらいの規模であれば、ソフトウエアの開発ができるのではないかというのが三部さんの考え方だった。 ―いったん冷却期間を置いてでも、再び交渉するべきか。 私はするべきだと思う。日産は、自力再建のプランを発表したが、あれはものすごく業績が低迷しているところから「普通の子」になろうしているだけだ。今の100年に1度の大変革は、「普通の子」では生き残れないということだ。営業利益1兆4200億円(通期予想)のホンダが、生き残れないと言っている。今の再建策で日産が10年先、20年先、生き残れる保証はない。誰かと組んで合従連衡する必要がある。 ―日産は、ルノーと対等な出資関係にするために、ルノーが保有していた株式を買い取る必要がある。資金の流れや出入りを示す「キャッシュフロー」が悪化する中、株式の買い取りもきつい。 きついし、へたをすると日産がアウトになるトリガー(引き金)になりかねない。 ◇アシモOS圏にホンハイの参画も ―提携相手として、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業はどうか。 今、ホンダがやろうとしていることは、「Over The Air(OTA)」と言って、スマホやパソコンと同じように、リモートでソフトをアップデートすること。テスラは、「走る、曲がる、止まる」に加え、ブレーキやワイパーの効き具合までリモートで調整できるようになっている。トヨタ自動車は、独自のOS「アリーン」の開発に、何百人ものエンジニアに加え、高い給料でソフトウエアのエンジニアも集めているが、計画は延びている。独フォルクスワーゲンも自社のOS開発がうまくいっておらず、最高経営責任者(CEO)のクビが危ないと言われているぐらい苦戦している。 ホンダは、今年1月に米ラスベガスで開催された見本市「CES」で、かつて作ったロボット「ASIMO(アシモ)」のOSを使うと発表した。アシモのOSがどのくらいのレベルかよく分からないが、やはりもう1社ITに強い連携相手が必要かなと思う。ホンハイは、米アップルのiPhoneの受託生産から、デザイン・設計を含めた電気自動車(EV)関連の受託にビジネスを変えようとしている。それ以外の事業で注力しているのは、米半導体大手エヌビディアのAIサーバーだ。創業者のフアンCEOも台湾人だし、おそらく(両社の)関係は近いんだろうなと想像する。通信やAIの世界は、これからものすごく強くなっていく。 ―そうすると、ホンダと日産に、三菱自動車、ホンハイも加わって、一つのOS圏ができるイメージか。 そう思う。ホンハイの関さん(日産出身で現在はホンハイのEV事業を統括する関潤氏)が考えているのは、そういうことじゃないかと思う。

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