連絡多いと「困る」児相から苦言か 虐待巡る保育園の孤立化どう防ぐ

愛知県犬山市で昨年5月、小学1年の島崎奈桜(なお)さん(当時7歳)が暴行を受けて死亡した事件を受け、市は27日、児童虐待に関する対応マニュアルを作成したと発表した。虐待に関わるすべての情報に対応し、組織として主体的に取り組んでいくとしている。【加藤沙波】 事件を巡っては、奈桜さんの母親(34)の内縁の夫(32)が傷害致死容疑で、母親が保護責任者遺棄致死容疑で逮捕、起訴されている。 昨年12月に公表された市の内部検証報告書では、「『児童相談所の指示に従っておけばいい』と安易に考えていた市の姿勢」を「最大の問題点」と指摘。そうした課題を踏まえて作成されたマニュアルでは、虐待に関わる情報を受けたら必ず、担当課内で管理職を含めた「緊急受理会議」を開くと規定。虐待の疑いが強いと判断された場合は、直接支援に携わる担当者らが「個別ケース検討会議」を開くなどして、迅速、丁寧に対応していくとしている。 市では20年以上前に作った対応マニュアルがあったが、近年はその存在すら担当者らは把握していなかった。新たなマニュアルは毎年見直し更新していくとしている。 原欣伸(よしのぶ)市長は「同じことを二度と起こさないよう、職員の意識と知識、対応力を高めながら業務に当たっていきます」などとコメントした。 ◇保育園の「違和感」、市や児相に伝わらず 「保育園だけが(虐待が疑われるケースに)対応しているのではなく、孤立しないような体制をしっかりと作っていきたい」。マニュアルを発表した27日の記者会見で、高木衛・市健康福祉部長はそう強調した。 死亡した奈桜さんは、保育園時代に2回、児相に一時保護されている。市の内部検証報告書では、保育園が抱いていた「危機感」や「違和感」が、市にも児相にも伝わっていなかった実態が指摘されている。 園は当時、奈桜さんの身体チェックをする役割を担っていた。しかし、傷やあざを確認しても、市からは児相に直接伝えるよう指示が出され、児相からは「連絡のたびに会議を開かなければいけない。そんなに連絡してもらっては困る」と苦言を呈されたこともあったとする。こうした点を、報告書は「保育園の孤立化」と表現している。 現場の孤立化をどう防ぐか。県内の別の自治体の保育園長は「関係機関それぞれが役割を果たし、支え合いながら連携していくことが非常に大事」と話す。 この園長は虐待が疑われる家庭の子どもに対しては、気になる点があればすぐに児相などに伝え、情報共有を欠かさないという。子育てに困難を感じているなど「余裕のない」保護者らには日ごろから声をかけ、丁寧な関係構築を心がける。 また、保育士らのメンタル面にも配慮し、学校でのスクールカウンセラーのような専門職の配置の必要性があるとし、「職員や保護者らが気軽に相談でき、負担を抱え込まない仕組みを作ってほしい」と要望する。 犬山市の新たなマニュアルでは、市と保育園との日ごろからの密な連携や、関係者間の情報共有にあたっては「子どもの安全について最もリスクを感じている機関の意見をよく勘案する」ことなどが記された。 同市の保育関係者は「現場の実態を理解し、私たちの声をきちんと吸い上げていってほしい」と求めている。【加藤沙波】

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