「非常戒厳」を宣言し、弾劾訴追されていた韓国の尹錫悦大統領が罷免された。弾劾の賛否を巡り二分した世論や、与野党間の対立は激化。分断を克服し、社会統合を図る道筋は見えないままだ。新たな指導者選びでは、政治体制の在り方もテーマになる。 ◇「対話と妥協」 「国会は対話と妥協を通じ、結論を導き出すよう努力しなければならない」。憲法裁判所は宣告でこう諭した。この間、韓国の政治、社会は、こうした一見当たり前のことを言わなければならないほど、殺伐とした状況に陥った。 1987年の民主化から40年がたとうとする中での突然の非常戒厳。昨年12月、戒厳司令官が発表した布告には、「一切の政治活動を禁じる」「すべての言論と出版は統制を受ける」と民主主義国の姿とはかけ離れた言葉が並んだ。兵士が窓を割り国会議事堂に入る姿は、国民に軍事政権時代のトラウマを呼び起こした。 しかし弾劾を巡り世論は割れ、1月には尹氏の逮捕状発付に激高した若者らが暴徒化し、地裁に乱入する事態が発生。異論を力で封じ込めようとする暴挙は、分断の深刻さを浮き彫りにした。野党も尹氏に続き、大統領代行の韓悳洙首相も弾劾訴追するなど、政権への攻勢を弱めることはなかった。 ◇自制失う大統領と国会 民主化を受けて定められた現憲法下の「87年体制」が限界を迎えたという見方も強まっている。大統領の権限が強大なためで、主要紙・中央日報は社説で、5年の大統領任期の短縮や首相を国会が選ぶ方式などの憲法改正を提案した。 今回の非常戒厳について、政治学者の康元沢ソウル大教授は「大統領制の最も悪い例が表れた」と指摘する。さらに、2017年に朴槿恵元大統領を弾劾訴追して罷免させた「成功体験」もあり、国会で多数を占める革新系最大野党「共に民主党」のたがが外れ、一定の線を越えない「制度的自制」の慣例が失われたと説明。直接選挙で選ばれた大統領と国会という「二つの民主的正統性」が共に自制を失えば、「体制が破局に向かいかねない」と危惧する。 ◇「国民全ての大統領」 60日以内に行われる大統領選では、改憲に向けた議論も争点の一つになる見通し。ただ、次期大統領候補として抜きんでている共に民主党の李在明代表はこれまで「内乱を克服するのが先だ」と語り、改憲論議を避けてきた。2回目の弾劾訴追成功で、権力奪還が近づいた野党が、大統領権限の縮小や「対話と妥協」を選ぶか見通せない。 憲法裁は宣告で、「尹氏は『国民全ての大統領』として、自らを支持する国民を超え、社会共同体を統合させるべき責務に違反した」と指摘。大統領が反対意見にも耳を傾け「社会統合」を目指す責務を再確認した。与野党共に、民主主義の回復に真剣に向き合う姿勢が問われている。(ソウル時事)