「検察なめんなよ」「かわいそうな人」、暴言なぜ?◇問題はどこにあるか、黙秘権から考える

検事の不適正な取り調べが相次ぎ発覚している。「検察なめんなよ」と怒鳴る、「かわいそうな人」と侮辱する・・・。検事は公益の代表者とされ、法律に通じた高潔なイメージもあるが、それとは真逆の荒っぽい発言が表沙汰になっているのだから驚くほかない。しかし私は一方で、「事件解明のため、時に激しい言葉を使い捜査をするのはある程度仕方がないのでは」という思いも拭えないでいた。人格を否定するような取り調べの問題点はどこにあるのか、防ぐためにはどうすればよいのか-。答えを求めるため、取り調べ室で検事に「罵倒」された男性に話を聞いた。(時事ドットコム取材班キャップ 渡辺恒平) ◇罵倒、怒声、人格否定 検事の取り調べを巡る問題はここ数年、相次ぎ発覚した。2021年10月に不動産会社社長だった男性が無罪になった業務上横領事件の捜査過程で、大阪地検特捜部の男性検事が社長の部下の取り調べで「検察なめんなよ」などと相手を罵倒したことが明らかになった。大阪高裁は24年8月、男性検事を脅迫的な言動で社長の部下に精神的苦痛を与えたという罪(特別公務員暴行陵虐罪)で刑事裁判にかけることを決めた。 東京地検特捜部でも2024年7月、太陽光発電関連会社を巡る詐欺事件で黙秘を続ける容疑者に検事が「検察庁を敵視するってことは反社(反社会的勢力)や」と言ったり、「ちゃんと自白をせいよ」と怒鳴ったりしたことが分かった。岸田文雄首相(当時)の遊説中に爆発物が投げ込まれた事件の取り調べでは、黙秘する被告が引きこもりだったことに触れ、和歌山地検の検事が「かわいそうな人」などと、人格を否定するかのような発言をしていたことが24年秋に発覚した。被告らの弁護人から指摘を受けて状況を確認した最高検察庁はいずれのケースも「不適正」だったと判断した。 ◇「サンドバッグのように打たれ続ける」 「ガキだよね、あなた」。「どうやったらこんな弁護士ができあがるんだ」。2024年1月、東京地裁の法廷のモニターに、黙りこくる容疑者にとげとげしい言葉を投げかける男性検事の様子が映し出された。傍聴席で取材していた私も、人間性を侮辱したり能力をあざけったりする発言の数々に、「取り調べという名目があるとはいえ、これはやりすぎではないか」と疑念を抱かざるを得なかった。 この時、取り調べを受けていた容疑者が江口大和さん(39)だ。弁護士だった2018年10月、交通事故を起こした男にうその供述をさせた犯人隠避教唆の疑いで横浜地検に逮捕された。最高裁で執行猶予付きの有罪が確定し、既に刑事事件としては結論が出ている。 江口さんはこの事件で取り調べを受けた際、黙秘すると告げたが、暴言も混じる検事の執拗(しつよう)な追及を聞き続けるしかなかったという。江口さんは「サンドバッグのように打たれ続けるのを我慢する」という取り調べの現状について、「このまま闇に葬ってはいけない」と考え、22年3月、国を相手取って民事訴訟を起こした。法廷のモニターに映し出されたのは、この訴訟で証拠採用されたものだ。 ◇耐えられる人だけの権利? 江口さんが訴訟まで起こしたのは、「暴言を吐かれた」からだけではない。黙秘すると告げたにもかかわらず、延々と計56時間もの取り調べを継続したのは、憲法38条が「自己に不利益な供述を強要されない」としている黙秘権を侵害しているのに等しいと考えたからだった。 江口さんの代理人を務める宮村啓太弁護士は黙秘権が憲法で保障されていることについて、「分かりやすいのは冤罪(えんざい)の防止」とし、「強制された供述が虚偽を含みやすいのは歴史が物語っている」と話す。 宮村氏はさらに言う。「憲法上の権利は忍耐しなくても行使できるはずだ」。「マラソンを完走した人だけに投票権があると言われたら、そんなはずはないと思うでしょう?」 。その上で、「(長時間の尋問や追及に)耐えられた人だけが黙秘できるというのでは、もはや権利とは言えない」と話した。

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