横浜・奈良中の柔道部員大けが:損賠訴訟 8900万円賠償命じる 脳機能障害「教諭の技が原因」 /神奈川

横浜・奈良中の柔道部員大けが:損賠訴訟 8900万円賠償命じる 脳機能障害「教諭の技が原因」 /神奈川
毎日新聞 2011年12月28日(水)12時45分配信

 横浜市立奈良中学(青葉区)で04年、柔道の部活中に顧問の男性教諭(33)に柔道の技をかけられ脳に障害を負ったとして、当時3年生だった男性(22)と両親が教諭や市、県に約1億8600万円の損害賠償を求めた訴訟で、横浜地裁は27日、市と県に約8900万円の支払いを命じた。森義之裁判長は教諭の行為と事故との因果関係を認め、「重大な結果が生じることは予見できた」と指摘した。【山下俊輔】
 市側は、男性の脳機能障害につながった頭部の静脈損傷について「原因は不明」と主張したが、判決は「教諭の投げ技で、頭部に急激な回転力が加わったことで静脈が損傷した」と認定した。
 さらに、市側は男性の静脈損傷はまれなケースだったとして「教諭は事故を予見できなかった」と反論したが、判決は、教諭の絞め技で男性が意識がもうろうとした状態だったことを重視。「首の固定が十分ではないため頭部に回転力が加わりやすい状態にあり、指導者として重大な傷害につながる危険性を認識できた」と指摘。「休憩を取らせるなどして、男性が正常な状態に回復するのを待つべきだった」と批判した。
 ただし、地方公務員の職務上の過失については自治体に賠償責任があるとして、学校を設置する市と、給与を負担する県に支払いを命じた。また、男性側は、教諭から都内の高校への推薦入学を勧められたことを断ったことへの制裁目的▽教諭の暴行は日常的−−とも主張したが、判決は「認めるに足りる証拠はない」と退けた。
 判決によると、教諭は04年12月24日、同校格技室で男性と技をかけ合う乱取りを行い、途中絞め技で男性の意識がもうろうとしていたにもかかわらず、背負い投げなどの技をかけた。男性は意識を失い病院に運ばれたが、急性硬膜下血腫と診断され、記憶力などが低下する高次脳機能障害が残った。教諭は全国大会で優勝した経歴がある。
 ◇「主張かなり認められた」両親会見
 男性の父親で「全国柔道事故被害者の会」会長の小林泰彦さん(65)は横浜市中区で記者会見し、「主張していたことがかなり認められ、うれしい結果になった」と評価した。一方、妻恵子さん(62)は「なぜ7年もかからなければならないのか。学校や教育委員会などが原因をはっきりさせてくれれば、裁判を起こさなかった。今日はうれしいという気持ちはなかった。元気な息子が戻ってくるわけではない」と率直な心境を語った。
 小林さんによると、判決の内容を息子に電話で伝えると、「これで先生はおれに謝ってくれるのかな」と話していたという。
 来年4月から中学で柔道などの武道が必修化される。小林さんは、同会のシンポジウムで現場の教諭や保護者らから必修化に対する不安の声が上がっていることを紹介し、「来年4月まで3カ月ある。どうすれば安全に授業ができるかを専門家が検討してほしい」と改めて訴えた。
 また、柔道指導者に対しては「28年間で114人の中高生が学校内での柔道で死亡している。事故をなくすためには、指導者が柔道技だけではなく、医学的な知識などさまざまことを勉強する必要がある」と指摘した。【山下俊輔】
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 ◆柔道事故を巡る訴訟の主な争点
 ◇教諭の柔道技とけがとの因果関係
 元生徒側 投げ技で頭部を強打したほか、回転力が加わり、静脈が損傷した。
 横浜市側 頭部強打はなかった。静脈の損傷はあったが、原因は不明。
 判決 投げ技で頭部に回転力が加わり、静脈が損傷した。
 ◇事故の予見可能性
 元生徒側 力の差がある相手に技をかけ続ければ、柔道について十分知識と経験を持つ教諭は傷害の危険性を予見できた。
 横浜市側 静脈損傷はまれなケースで、通常の指導者が経験的知識を有しているとは言えず、予見することは不可能。
 判決 意識がもうろうとした相手に技をかけ続ければ、重大な傷害が生じる危険性を、指導者の教諭は認識できた。

12月28日朝刊

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