中学の武道必修化、重大事故対策は?
読売新聞(ヨミウリオンライン) 2012年3月27日(火)10時11分配信
全国の中学校では、これまで保健体育の選択科目だった「武道」(1988年度まで男子必修「格技」)が、1、2年生の必修になります。
学習指導要領は、競技スポーツ「武道」として原則的に柔道、剣道、または相撲を学校ごとに選択する一方、事情によっては、なぎなた等でもよいとしています。
ここで懸念されはじめたのが、柔道で頭などを強打することによる重大事故です。ほとんどが部活内での事故とはいえ、他競技に比べて柔道による重大事故の比率は高いとの報告が報道されているからです。
柔道を選択する学校数は、現時点では全国の6割に達するそうですから、授業柔道での事故防止策は周知徹底されていなければならないはずです。
しかし、いろいろな報道を総合すると、準備不足の気配を感じます。一例は、10日ほど前の国会審議。柔道女子金メダリストの谷(旧姓田村)亮子・参院議員(2010年初当選)が「指導に国家免許を」と指導資格制度の必要性を実施直前の今頃になって訴えていました。「武道」必修化が決定されたのは2008年。本当に必要な安全対策なら、もっと迅速に整備すべきでしょう。
最近、愛知県では、県教委の委託を受けた県柔道連盟が過去30年間、計6日間の講習だけで体育教師に指導資格者の象徴である黒帯(段位)を与えていたことが報じられました。似た実態は他県にもあると聞きます。
真面目に鍛錬して黒帯を許された一般柔道家には衝撃的ニュースでしょう。柔道の段位こそありませんが6年がかりで空手段位に到達した筆者も侮辱された気持ちです。が、それにまして、見せかけの黒帯教員に指導を受けるかもしれない生徒たちのことが心配です。ところが、愛知県教委も柔道の総本山であろう講道館も、改善の動きがいまひとつ鈍いようです。
他紙ですが、を見つけました。
受け身とは、柔道などで倒された時に頭など自分の体を守るすべ。身体が地面にたたきつけられる衝撃を前腕で緩和する動作が、そのよい例です。
これは柔道の基本中の基本で、初心者でも形はすぐに覚えられるのですが、瞬間反射的にその動作がとれるには、上記社説の「3年」はともかく、10回程度の必修授業なら、毎回授業の大半を使うぐらいの気持ちで練習する必要があります。上記、初体験の「6日講習」者では受け身の習得すら至難でしょう。
大外刈りなど頭から落ちる可能性のあるいくつかの技は、受け身が身につかないうちに本気で試すには危険だということだけは周知されるべきでしょう。
空手もそうですが、武道は本来、先手攻撃を邪道とし、相手の攻撃から身を守る護身を極意、あるいは「理想」(杉江正敏「日本の武道」=日本武道館編『日本の武道』=から)とします。
一見攻撃的に見える競技柔道にも、その奥義には「身を護(まも)る」「危機を未然に回避する」(同)という武道の伝統的目的があるはずです。中学の体育指導者には、柔道の授業を、競技柔道への初歩という位置づけにとどまらず、自己防衛術の観点を入れて、受け身や、反撃技指導に工夫を重ねてもらいたいものです。
(調査研究本部主任研究員 鬼頭誠)