<東邦大元准教授>論文193本、不正か 麻酔科学会が調査
毎日新聞 2012年5月23日(水)2時31分配信
日本麻酔科学会(森田潔理事長)は22日、会員である麻酔科医が国内外の専門誌に発表した、麻酔薬の投与量などに関する論文193本のデータに不正の疑いがあるとして、本格的な調査に乗り出したことを明らかにした。この医師が准教授として在籍した東邦大は今年2月、在籍中に発表した論文のデータをとった際に倫理規定違反があったとして、この医師を諭旨退職処分にしている。【久野華代】
同学会によると、調査対象となっているのは元東邦大准教授の藤井善隆医師。「論文のデータの公正さに疑問がある」と国内外の複数の専門誌が指摘したことから3月、調査特別委員会を設置。藤井医師が1991年以降、国内の病院や大学など7機関に在籍して発表した論文193本について、各機関と連携して調査を進めている。
不正の疑いがもたれたきっかけは、外国の麻酔学に関する学術誌に2月、英国の専門家が投稿した藤井医師の論文に関する評論。1991〜2011年に藤井医師が実施したとしている約170件の試験データを統計学的に分析した結果、試験対象者の年齢、体格、血圧などの傾向が特定の範囲に集中し、平均的な分布と大きく異なって、本来あるはずのばらつきがなかった。評論は、こうしたことはほぼありえないとしてデータの正しさに疑問を呈するなど、複数の専門誌がデータ捏造(ねつぞう)や改ざんを示唆した。
これを受け、藤井医師の論文を掲載した国内外の23の専門誌が4月、藤井医師が過去に在籍した病院や研究機関に対し、論文の撤回を検討している旨の書面を送付。各機関でも調査するよう求めた。
調査対象の193本のうち9本は、藤井医師が東邦大在籍中に発表。同大が調査した結果、いずれも藤井医師が茨城県内の病院で行った、患者を対象とした研究を基にしていたが、実施前に義務づけられている病院内の倫理委員会の承認を得ていたのは1本だけだった。藤井医師が事実関係を認め論文を撤回したとして、同大は2月29日付で藤井医師を諭旨退職処分にした。
藤井医師は毎日新聞の取材に対し「日本麻酔科学会の調査が終わるまでコメントできない。結果がまとまったら説明する」と話している。