彫り師も橋下氏支持「まずいっしょ」 入れ墨やっぱりアウトロー?
産経新聞 2012年6月2日(土)10時7分配信
【関西の議論】
大阪市の橋下徹市長が命じた職員への入れ墨調査で、にわかに注目を集めている入れ墨やタトゥー。かつては限られた世界で愛好されていたが、「カッコいい」「人とは違う個性になる」「願掛け」としてタトゥーを施す若者も増えている。ただ、首元や袖からのぞく“飾り”に不快感を覚える人がいるのも事実。企業への就職は難しく、プールや入浴施設などでは入場を拒まれるケースも少なくない。大阪・ミナミでタトゥースタジオを営む彫り師の男性は「『入れ墨=極道』のイメージが残る日本では、あくまでアンダーグラウンドの存在。社会的に認められるのは難しいのではないか」と話す。
■「タトゥー?してますよ」
日曜日、ミナミのアメリカ村。最先端のファッションを求めて若者が集まる。中心部の三角公園で、石段に腰をかけて友人と話していた兵庫県伊丹市のフリーターの女性(22)に声をかけた。
「タトゥーですか? してますよ」と左足をあげた。足首の内側に直径5センチほどの星型の入れ墨があった。
18歳で初めて左耳の後ろに入れた。絵柄は好きなアニメキャラクター。「めっちゃ優しい心の持ち主のキャラなんです。私もそういう人になりたいなあって」。理由はさまざまだ。
「近々入れようと思っている」というのは、大阪府豊中市の専門学校2年の男性(20)。「他の人とは違う個性になると思う。もっとファッションとして認められればいいのに」と口をとがらせた。一緒にいた友人の女子大学生(20)は別の意見だ。
「社会的に認められていないのにあえてしたいとは思わない」
一番気になるのは就職だといい、「デメリットが大きすぎる」と話した。
■企業でもNG?
橋下市長は「ファッションで許すという企業があってもいいから、入れ墨をやりたい職員は民間に移ってもらいたい」と発言しているが、実際は、服では隠せない場所への入れ墨を許している企業は少ない。
大阪市内の大手サービス業の会社では、ピアスや髪形と同様、タトゥーに関してのルールがあり「見えないようにする」としている。また、同市内の大手メーカーでは「規定はないが、常識の範囲内で対応する」とし、見える部分のタトゥーを事実上、禁じている。
堺市内の製造業の男性経営者は「入社時に分かればまず採用しない。見えなければいいという問題ではない」と厳しい。
一方、大阪市中央区のイベント会社の経営者(39)は「程度にもよるが、ファッション感覚のものならOK。あとは人間性をみて判断する」としている。
公務員ではどうか。京都市は「市職員コンプライアンス推進指針」で「市民に信頼される身だしなみ」をするよう示している。同市コンプライアンス推進室の金井塚裕平係長は「入れ墨に対してさまざまな反応がある中で、不快と思う市民がいて信用低下につながるなら禁止すべき。もし問題が発生したなら人事上の処遇も考えなければいけない」としている。
ただ、市として入れ墨を入れている職員を認知しておらず、また市民からも「入れ墨が入った職員がいて不快感を覚えた」といった報告やトラブルもないため、大阪市のような調査をする予定はないという。
神戸市人事課の坂井亘係長は「今のところ職員の入れ墨に関するトラブルはない。問題が起これば対応する」としている。
■アウトローの文化
「日本では、やはりタトゥーはアンダーグラウンドな存在。入れるにはそれなりの覚悟をすべきだと思う」
ミナミでタトゥースタジオを経営する30代の男性はこう話す。
日本では1990年代に伝統的な「和彫り」とは違った、「洋彫り」と呼ばれるファッション感覚のタトゥーが米国から上陸し、一気に人気が高まった。
この時期に、極道の世界とは無縁の“一般人”彫り師も増えたという。当時は「羽振りもよく、高級車のフェラーリに乗っている彫り師もいた」らしい。
しかし、この男性は「欧米レベルまで社会で許容されるには至らなかった」と感じている。近年は業界も不況で、活躍の場を求めて海外に拠点を移す彫り師も少なくないという。「日本でも、もう少しアートとして認めてほしい」という本音も漏れる。
スタジオを訪れる客は、音楽業界や内装業などの人たちが多いという。「手に職があって、自分で食べていける人が多いかな」。
そして、橋下市長の発言についても「入れ墨やタトゥーは、アウトローの文化。公務員がしなくてもいい」と支持する。
別の彫り師の男性(33)もこう言った。
「ファッション感覚のタトゥーと、ヤクザのような入れ墨は違うものだが、一般人にとっては線引きが難しいし威圧感を感じる人もいる。市民と接する公務員が入れるのは、やっぱりまずいんじゃないですか」