これが「遊び」か 中3が小6を蹴り続ける「対戦ゲーム」
産経新聞 2012年7月28日(土)12時6分配信
大津市で市立中学2年の男子生徒=当時(13)=の自殺をめぐる問題をきっかけに、改めて「いじめ」がクローズアップされる中、まさに衝撃的な映像が“全国配信”された。兵庫県の南西端にある赤穂(あこう)市で、中学3年生が小学6年生に暴行を加える動画がインターネットに投稿されるという事件が発覚した。少年らは「ゲームをまねた遊び」と主張するが、赤穂市教委は「明らかないじめ」と判断。警察も暴行容疑などでの立件を視野に入れており、ゲームのように「リセットして終了」とはいかない事態となっている。
■「顔面やんなよ」
ネット上の動画投稿サイト「ユーチューブ」に7月、赤穂市の中学3年の男子生徒(14)が小学6年の男児(12)を暴行する動画が投稿された。
調査した赤穂市教委によると、動画は市内の公園で8日午後5時ごろに撮影。現場には男児と男子生徒のほか、中学3年〜高校2年の少年4人も居合わせた。その中の1人が自分の携帯電話で撮影したという。
動画は約1分間。男子生徒が男児に対し、何度も殴る蹴るの暴行を一方的に加える内容だ。両手で男児の腰を持ち上げ、地面に落とすような場面もみられた。
「こらおもれえ動画になりそうや」
「顔面やんなよ」
撮影者を含む少年4人は周りではやしたて、助けることさえせず傍観していた。動画は現在、ユーチューブ上では削除されているが、コピーされて出回っている。
■「遊び」と主張
兵庫県警は動画内で暴行を加えていた男子生徒を、別の男子高校生(15)に対する傷害などの容疑で逮捕。その後、男児は父親に相談した上で県警赤穂署に被害届を提出した。県警は動画内の暴行について、男子生徒らを立件する方針で捜査を進めている。
市教委によると、動画内の暴行について、男子生徒だけでなく被害を受けた男児も「1〜2分間マッチの対戦ゲーム。遊びのうちだった」と主張した。市教委などの調査が、暴行から1週間以上経過していたためか、男児の体にあざやけがの痕跡はみられなかったが、市教委は「いくらゲームでも体格差のある男児を一方的に暴行していた。互角の対決とは思えず、明らかにいじめだ」と判断した。
市教委が“いじめ”を認知したのは17日。男子生徒が通う中学校に東京や長崎から「暴力画像がネット上で流れている」と連絡があり、校長が市教委に報告したのがきっかけだった。県外の市民が、なぜ赤穂の少年だと分かったのか。
■「喧嘩番長」まねた
実は暴行の動画が終了すると、あるリンク先が画面上に表れ、クリックすると別の動画が始まる。少年らがタバコに火を付ける様子が映され、ある生徒が着ていた体操服に赤穂市の中学校名が書かれていたため、全国どこからでも分かったというのだ。
動画内の暴行の関係者は男子生徒と男児、周りの少年4人。市教委によると、6人は遊び仲間で全員が同じ学校ではないといい、それぞれが夜によく出歩いていたという。男児は約1年半前から、市内のゲームセンターなどの娯楽施設で男子生徒らのグループと知り合ったらしい。
男子生徒らが市教委の調査に、動画内の暴行について「人気ゲームソフトの『喧嘩(けんか)番長』をまねた」と説明していることも判明。制作元によると、主に携帯ゲーム機用ソフトで、主人公の番長が「1対1」のけんかを勝ち抜くことで“ツッパリ”としての評価を高めていく内容だ。男子生徒らは「(喧嘩番長をまねた)対戦ゲームは7月から始め、計4〜5回やった」と説明しているという。
■男児は「やられ役」
男子生徒らと遊び仲間だという少年は「男児は年上の人間にもため口をきいていた。男子生徒らと対等の関係だったようにも思う」といい、「対戦ゲームを始める前にじゃんけんをする。負けたら2分間、一方的に暴行されるというシステムだった」と独自のルールを話した。
ただ、男児は市教委に「ほとんどの暴行は自分が標的。やられ役だった」とも語り、「男子生徒は本気なので怖く、暴行されて痛かった」と対戦ゲームへの“恐怖”を吐露している。
現場の公園近くに住む女性(67)は男子生徒グループの対戦ゲームとみられる現場を目撃した。公園に少年5〜6人が集まり、1人が別の少年の足を蹴り続け、倒れた相手が起きあがればまた蹴っての繰り返しだったという。「警察呼ぶで」と注意すると、ある少年が「遊びや」と言い返した。翌日、赤穂署に少年らの暴行を連絡したが、「警戒します」とだけ言われたという。
■「大津のケースとは異なる」
市教委は18日夜、市内の幼稚園の園長や小・中学校の校長らを集めた臨時会を開催。ネット社会の危険性を子供たちに再認識させる指導の徹底や、いじめに対しては毅然(きぜん)とした対応を取るように指示した。
平井正彦・教育次長は19日、報道陣に対し「1人をクラスメートが集団で疎外するという学校内でのいじめとは異なる」と述べ、大津市のケースとは異質なものと強調した。市教委はいじめについて毎年夏休み前に市内の公立学校でアンケートをとっており、関係者は「大津市の場合とは異なるとはいえ、身近で起きたばかりだけに、子供たちの回答には例年以上に『本音』が書かれているかもしれない」と集計作業に対して複雑な心境を話す。
市教委の事情聴取では、男子生徒から反省の言葉はなかったという。関係者は「一歩間違えれば男児の命に関わる話だったかもしれない。それほど危険なことをやっているという自覚がまったく感じられない」と嘆く。
広辞苑によると、「いじめ」は、「弱い立場の人に言葉・暴力・無視・仲間外れなどにより精神的・身体的苦痛を加えること」とある。全国に広がるいじめ問題は、いつ止まるのか。