新潟県新発田地域振興局農村整備部発注の工事を巡る官製談合事件に関連し、過去の部長経験者とみられる人物が捜査機関の調べに対し、建設業者間の談合の調整役について「いろいろと聞いてくるから上手にお付き合いをするように」と、前任者から引き継ぎを受けたと供述していたことが、刑事裁判の確定記録で分かった。供述者は談合への協力という意味で受け止め、後任にも引き継いだと証言していた。県はこれまで部長間の引き継ぎはなかったとし、組織的関与を否定している。 2023年に発覚した事件では、当時の部長が逮捕され、有罪判決を受けた。昨年2月に公表された県の内部調査では、 この部長だけでなく、農村整備部の前身の農地事務所の所長1人と歴代部長9人のうち少なくとも7人が、入札に関する秘密事項を業者側に漏らしていたことが分かっている。 刑事裁判の確定記録は新潟日報社の記者が新潟地検に閲覧申請し、3月上旬に開示された。歴代の元部長とみられる人物や談合に関わった業者関係者の供述調書などが含まれている。 大部分の氏名は黒塗りだったが、勤務時期などの記載から元部長と判断できたうちの1人の供述調書には、20年近く前の出来事として、前任者との事務引き継ぎの際、業者側の調整役の存在を伝えられ「上手にお付き合いをするように、というようなことを口頭で説明された記憶がある」との証言が記されていた。 一方、事件で逮捕された当時の部長は「前任者の部長から引き継ぎもないし、相談もしていない」とし、業者側から持ちかけられて漏えいを決めたと供述していた。 事件を巡っては、県議会2月定例会で県議が確定記録を基に、引き継ぎの証言があったことを指摘。県は事件の背景などを調べている外部有識者会議でも新たに確定記録を確認し、内容を精査するとしている。 ◆過去には所長が落札業者決定に関与か…供述調書に生々しいやりとり 「新発田ではAさん(調書では実名)が調整役となって談合をしている。Aさんのおかげで入札が不調にならず工事が回っている。できる限り協力しなさい、ということだと理解しました」 元部長の1人とみられる供述調書には、前任者からの「引き継ぎ」や漏えいの手口など生々しいやりとりが記されていた。 情報漏えいが罪になる可能性を認識しつつも「新発田はこういうルールなのかな」「工事が進まなくなるのは困るし、仕方がないかな」などと考え、「協力を決意した」と関与した経緯を語っていた。 この人物は業者側の調整役に予定価格は教えず、言われた金額に「それだと高すぎる」「もっと下げないとダメだ」と伝え、価格内に収まるように誘導。他の職員に気づかれないよう、やりとりは携帯電話でした。設計書などの決裁が回ってきた際に予定価格を書きとめ独自の一覧表をつくり、電話は駐車場の車の中からしていた。 一方、別の元部長とみられる人物は、漏えいを求められた当初は「秘密事項なので、答えられないと返事をした」と供述。しかし、調整役から「ずっと教えてもらっている」などと言われ、流されるがまま、予定価格や指名業者を伝えるようになった。 記録からは新事実も浮かんだ。20年以上前、農村整備部前身の新発田農地事務所の所長だったとみられる人物は「特定の業者を落札候補にしてほしいという話を向け、談合に加わったこともあった」と供述。自ら落札業者の決定に関与していたという。 官製談合防止法の施行(2003年)があったため、自身は途中から落札業者の決定には関わらなくなったが、予定価格などは教え続けたとした。 後任の所長には「上手に付き合ってね、と引き継ぎをした覚えがある」とし、落札者を所長が決めろという意味ではなく「事業がスムーズに進むように談合は必要なことだと思っていたからこそ、接点を途切れさせてほしくなかった」と供述した。