国内最大の暴力団・六代目山口組が分裂したのは’15年8月のことだった。離脱した神戸山口組との対立抗争は今夏で10年となり、長期にわたっている。 そんな中、警察当局の最新の構成員資料を入手した。資料によると、’24年末時点で六代目山口組の構成員は約3300人。一方、神戸山口組は約120人となり27対1にまで広がっていることが判明した。勢力差は大きく、神戸山口組が形勢を逆転させることは困難とみられるが、警察当局は双方の抗争状態は継続しているとみて警戒態勢を解いていない。 ◆カネを巡り生まれた「溝」 警察庁は毎年の年末時点で、全国の暴力団の構成員数をまとめている。’15年に分裂した際の六代目山口組の構成員は約6000人で、神戸山口組は約2800人だった。警察当局の捜査幹部は、「分裂の原因はカネの徴収が厳しかったことと、六代目体制になってからの強権的な組織運営が挙げられる」と指摘している。不満を募らせた山健組や宅見組、池田組、俠友会、正木組の5組織が中核となり計13組織が六代目山口組を離脱、神戸山口組を結成。組長には山健組組長だった井上邦雄(76)が就任。神戸山口組はカネのかからない組織を標榜したため、当初は加入者が相次いだ。 しかし、神戸山口組でもイレギュラーなカネの徴収が始まり内部で不満が充満した。山健組の幹部・織田絆誠が’17年に400人を引き連れて離脱。現在は絆會として独立して活動している。さらに池田組が’20年に脱退。その後も中核組織の離脱が相次ぎ、四分五裂の状態となっている。 カネの問題以外に神戸山口組の組織が縮小していった理由として、六代目山口組が引き起こす事件に対して組長の井上が報復を禁じていたことも挙げられる。対立抗争を注視してきた首都圏に拠点を構える指定暴力団幹部は、 「ヤクザのケンカなのだから、やられてもやり返さないのでは意味が分からない。組長からダメだと言われていても、『若い衆が勝手に突っ走りました』と言い訳しておけばよい。抗争なのだから、一方的にやられたままではヤクザの業界では理解されることは到底ないうえ、カタギの世間様からもいかがなものかとなる」 と疑問を呈する。 こうした経緯で、神戸山口組は当初の構成員約2800人から’21年には510人と3桁へと減少、最新データとなる’24年末時点では約120人となっている。絆會も当初は約400人だったが、同年末時点で約60人、池田組は結成時の約80人から約60人へと減少している。 ◆六代目山口組系元組員による放火事件 10年にわたる分裂抗争の中で、最も抗争が激化したのは’19年秋だった。神戸山口組最高幹部が、殺傷能力が高い「M16」と呼ばれる自動小銃で数十発の銃弾を浴びて殺害されるという残忍な事件が発生。逮捕されたのは六代目山口組系の元組員だった。そのほかにも神戸山口組系の組員2人が同時に射殺される事件も発生している。 続発する事件に対処するため、六代目山口組と神戸山口組は’20年1月、行動が厳しく制限される「特定抗争指定暴力団」に指定された。 ’22年10月には岡山市内の理髪店で散髪中の池田組組長の池田孝志が、刃渡り18センチのサバイバルナイフを持った男に襲撃される事件が発生。のちに六代目山口組は池田組との間でも特定抗争指定暴力団に指定されている。 絆會も六代目山口組に対して事件を引き起こしている。’22年1月、茨城県水戸市内の六代目山口組一心会系の事務所で、組長が射殺される事件が発生。’23年4月には兵庫県神戸市内でラーメン店店長を兼ねていた六代目山口組弘道会系の幹部が射殺された。いずれの事件でも逮捕されたのは、絆會若頭だった。警察当局は、六代目山口組は絆會とも対立抗争状態にあるとして、特定抗争指定暴力団としている。 こうした事件を踏まえて六代目山口組は神戸山口組、池田組、絆會との間で、トリプルで指定されている状態だ。 今年に入ってからも対立抗争事件は起きている。1月19日、神戸市内にある神戸山口組・井上組長の自宅が放火される事件が発生。逮捕された男は六代目山口組系の元組員だった。前出とは別の警察当局の幹部は、「以前のように事件が続発というわけではないが、井上の自宅、つまり本丸が狙われる事件が起きている。対立抗争状態は収束に向かうということはない。いつ、重大事件が起きるか分からない。今後も特定抗争指定は継続して厳しく活動を制限することが必要だ」との考えを示している。