「iPS細胞」で虚偽発表の森口尚史氏、その素顔は… 恩師も処分の対象へ
産経新聞 2012年10月20日(土)18時56分配信
人工多能性幹細胞(iPS細胞)による世界初の臨床応用という虚偽の発表をした東大病院特任研究員、森口尚史氏(48)について、東大は懲戒解雇処分にした。森口氏は移植手術について「1件はやった」との主張を崩していないが、東大は少なくとも5件は虚偽だったと判断、「大学の名誉、信用を著しく傷つけた」とした。虚偽発覚から1週間。森口氏の欺瞞(ぎまん)は、恩師ら他の研究者にも影響を広げる。
■「ノーベル賞候補」…近所で研究成果を誇示
「日本では発表できない研究をニューヨークで発表する」
今月2日、千葉県市川市の自宅近くのクリーニング店で、森口氏はこの店の女性(68)にこう豪語していた。自らを「ノーベル賞候補」と称し、“研究成果”も誇示した。
渡米前にもこの店に寄り、モスグリーンのジャケットを持ち込んだ。「ニューヨークの発表で着るから、必ず10日朝までに届けて」。こう依頼した。
この女性によると、森口氏は来店のたびに1時間ほど立ち話をし、「ハーバード大で研究している」「研究仲間が気に入らない」などと話していたという。
そんな森口氏が語った“研究成果”が、iPS細胞から作った心筋細胞を重症の心不全患者に移植する手術を米国で6人の患者に実施したというものだった。
■身分詐称、盗用…疑惑噴出
これが公になったのは、今月11日。しかし、その後の会見で「5件は未実施」と嘘を認めた。実施したとする1件についても実施時期を「2月14日」から「昨年6月3日」に訂正。くだんのクリーニング店によると、2月15日に衣類を預けた記録があり、当初の説明の2月には渡米すらしていなかったようだ。
肩書の詐称や論文の盗用疑惑も浮上している。東大医学部iPS細胞バンク研究室所属、ハーバード大客員講師…。東大などによると、いずれも虚偽だった。英科学誌「ネイチャー」は森口氏の過去の論文に、ノーベル賞受賞が決まった山中伸弥京大教授の論文を盗用したとみられると指摘した。
また、森口氏は国が助成したプロジェクトから昨年2月〜今年9月、計967万円を人件費として受領していた。だが東大病院によると、同病院では助成の対象とされたiPS細胞の凍結保存は行われていなかったとされ、内閣府が調査を進めている。
元最高検検事で中央大法科大学院の奥村丈二教授(刑事法)は「研究が行われず、生活費への流用目当ての申請であれば、詐欺罪に問われる可能性がある」と指摘する。
さらに、手術を行ったとする昨年6月の渡米時、母校の東京医科歯科大に「学会に招待された」との理由で渡航費を申請し、負担してもらっていたが、学会のプログラムに森口氏の名前がなかったことも判明している。同大は調査を進め、結果次第で返還を求める方針だ。
■共著が多い恩師にも波及、処分の対象
森口氏の問題は、恩師である東京医科歯科大の佐藤千史(ちふみ)教授(63)らにも及ぶ。
問題となった臨床応用に関する論文など計20本の共著がある佐藤氏について、同大の調査委員会は16、18日に聴取。佐藤氏が「論理的に間違っていないかアドバイスをしただけ」と証言したため、同大は「研究の中身について検証せず、共著となることはありえない」と判断し、処分の対象とする見通しだ。
調査委の調べでは、佐藤氏は森口氏が同大大学院に在学中の指導教官。9年には同大の非常勤講師に推挙している。
問題となった「iPS細胞の臨床応用」について、産経新聞は、最初に森口氏の研究成果を報じた読売新聞の記事を受けて佐藤氏に電話取材し、「(読売新聞報道の)事実関係はあっている」との説明を受けた。佐藤氏は「うかつなところがあったかもしれない。大学から言うなと言われているので、今は何も答えられない」としている。