<バルサルタン>ノ社、学会発表前に広告 情報取得を裏付け

<バルサルタン>ノ社、学会発表前に広告 情報取得を裏付け
毎日新聞 2014年1月13日(月)7時30分配信

 降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)の臨床試験疑惑で、販売元のノバルティスファーマが、東京慈恵会医大のデータ操作された研究結果が2006年に学会発表される約2カ月前から、バルサルタンの広告で成果を「予告」していたことが分かった。薬の販売に有利になる結果を事前に把握し広告を出していた可能性がある。厚生労働省が告発した薬事法違反(誇大広告)の公訴時効は3年だが、東京地検の捜査でもこうした経緯の解明が鍵を握りそうだ。【八田浩輔、河内敏康】

 慈恵医大の試験責任者、望月正武教授(当時)が「バルサルタンには他剤と比べて脳卒中などのリスクを4割下げる効果がある」との試験結果の速報を初めて発表したのは、06年9月5日にスペインで開かれた国際学会だった。ところが、ノ社は医療専門誌「日経メディカル」の06年7月号から連続で「予告」広告を掲載していた。

 バルサルタンの効果を調べた海外の臨床試験の名称が列記された中、空欄のプレート1枚を残して、新たな臨床試験結果への期待感を演出するデザインだった。学会発表後の10月号では、空欄に慈恵医大の試験の名称(JIKEI HEART)を入れ、発表されたことをPRした。同様の広告は、同じ期間の医療専門紙「メディカルトリビューン」にも掲載されていた。

 望月元教授らは07年4月に医学誌ランセットに論文を発表。論文は多数の広告に引用されてバルサルタンの売り上げを支えたが、昨夏にデータ操作が判明、ランセットから撤回された。

 バルサルタンの広告戦略に携わった関係者は「事前に試験結果を知らないと実現しない広告だ。当時は国内で大規模な臨床試験はほとんど無かったこともあり、宣伝上、試験結果が出るぞとあおる過程が重要だった」と証言する。

 ノ社が試験結果を事前に把握していたのではないかという問いに対し、同社の釈明は変遷している。

 疑惑発覚から間もない時期の取材には「会社は学会発表で初めて試験の結果を知る」と強調していた。しかし昨年10月に改めて見解を問い合わせると「発表前から情報を取得していた者が(社内に)いたと考えるが、退職者も多く特定に至っていない」と文書で回答。昨年末には「当局の調査が終了していない段階で、回答は控えたい」と修正した。

 ◇「近日公開」→「根拠手に入れた」

 日経メディカルの06年7月号のバルサルタンの「予告」広告は、東京慈恵会医大の臨床試験の「指南役」とされる外国人医師が、読者に「Do You Have Evidence?」(エビデンス<医学的な根拠>はある?)と呼びかける。バルサルタンの効果を調べた海外の臨床試験の名前が並ぶ中、1枚の空欄のプレートが金色の光を放ち、「Coming Soon…」(近日公開…)という思わせぶりなコピーが添えられた。

 慈恵チームが学会で試験結果の速報を発表した後の10月号では、空欄だったプレートに「JIKEI HEART」の文字が入り、望月正武教授(当時)が笑みを浮かべた全身写真に「We Got It!」(手に入れた!)の文字が躍っていた。

 ◇慈恵医大の臨床試験と広告を巡る経過

05年12月 臨床試験終了

06年4月ごろ ノ社社員の解析結果を基に論文の粗稿がまとまる

  7月 日経メディカルなどで「予告」広告掲載が始まる

  9月 スペインの学会で試験結果速報発表。これ以降、広告に望月正武教授が度々登場

07年4月 英医学誌ランセットに論文が掲載。論文はPR材料に多用されるように

12年4月 専門家がランセットで慈恵論文の問題点を指摘

13年4月 大学が調査委員会を設置

  7月 データ操作が判明

14年1月 厚労省が誇大広告の疑いで刑事告発

※肩書は当時

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする