実は“ニセ教諭”だった「アイデア先生」、15年間も授業…バレた顛末は

実は“ニセ教諭”だった「アイデア先生」、15年間も授業…バレた顛末は
産経新聞 2014年3月11日(火)12時15分配信

 大阪府東大阪市の市立中学校で社会科を担当していた男性(45)が、教員免許を所持しないまま15年間にわたり授業を行っていたという驚愕(きょうがく)の事実が判明した。大学を中退したため教員資格を持っておらず、採用時には友人から借りた本物の免許状を偽造、府教委に提出していた。医師免許を持たない天才外科医を描いたマンガのような教師版“ブラックジャック”だったのか。熱心な教え方と、厳しくも優しい部活動の指導で生徒や保護者から慕われた男性だったが、その「真相」を暴くことになったのは、新たに導入された「教員免許更新制度」だった。

■「免許状、貸してくれへん?」

 「難しいことでも分かりやすくしようと、いつも考えてくれていた」

 男性の授業を受けていた東大阪市立中1年の女子生徒(13)は、男性の熱心な教え方を振り返り、複雑な表情をみせた。

 男性は採用後の15年間に同市立中計4校で勤務し、社会科を担当。最後に勤めた中学校で7年目を迎えていた男性は、女子バスケットボール部の顧問も務めていた。

 府教委によると、男性は関西の大学に在学中、平成5年度実施の教員採用試験を受けたが不合格に。6年4月に単位が取得できず退学したが、試験を受け続けて10年度に合格した。免許状は大学で必要な単位などを取得し卒業すると都道県教委から交付される。

 男性の場合は、府が実施する採用試験に合格した後で改めて府教委に提出する必要があるが、そもそも男性は中退しているため免許状を持っていない。困った男性はすでに教員免許を取得していた友人に頼み込んだ。

 「免許状、貸してくれへん?」

 男性は友人の免許状の名前、本籍地、生年月日、免許番号を書き換え、コピーをとって府教委に提出。府教委の担当者も偽造と疑わず、男性は採用された。30歳の春だった。

■「名前変えました?」

 それから約15年後の今年1月30日、ついに運命の時は訪れる。

 教員に必要な最新の知識・技能の習得を目的に21年度に導入され、教員免許に10年間の有効期間を設けた「教員免許更新制度」で、男性が初めて免許の更新時期を迎えたのだ。

 免許更新手続きでは、改めて都道府県教委に免許状のコピーを提出する必要がある。電子システムに登録されている免許取得者と照合するためだが、男性が提出した免許番号が別人のものと判明したのだ。

 「名前変えられましたか」と問う府教委の担当者に、男性は「いや、これは自分のもんなんですけど」と返答した。不審に思った府教委は、男性に大学の卒業証明書の提出を求めるとともに、男性が卒業したという大学に連絡したところ、「そのような名前の人は卒業していません」と回答があった。

 2月17日、再び府教委は男性と面談。その際、男性は自身の「退学証明書」を「卒業証明書」に書き換え、持参していた。持っているはずのない卒業証明書を前に担当者が「大学からは卒業していないと聞いているが、これは本物か」と問い詰めると、男性は一瞬言葉を失い、ついに観念した。

 「大学は卒業できませんでした。免許状は偽造です」

 府教委の担当者から「子供たちに後ろめたい気持ちはなかったのか」と問われ、「いつバレるかとドキドキしていた。生徒には申し訳ないことをした」とうなだれた。

■「熱心」評価する声も

 教員免許を持たないまま15年も教壇に立っていたという前代未聞の事実に非難の声が上がる一方、熱心な指導を評価する声もある。

 同僚教員によると、男性は夜遅くまで学校に残って翌日の授業の準備をし、週末は部活動の指導をしていたほか進路指導も精力的に励んでいた。校長も「物知りで授業にも部活にも熱心だった」と評価する。

 生徒からも「優しい先生」「授業は面白くて分かりやすい」「例え話もあって『アイデア先生』っていう感じ」と好意的な声が多い。府教委の担当者も「授業は学習指導要領に沿って丁寧にしっかり行っていた」と話す。

 2月25日夜、男性の中学校で開かれた保護者説明会では、保護者から「他の先生は大丈夫か」「男性はどのような罪に問われるのか」など厳しい意見が相次ぐ一方で、生徒から慕われていた男性を擁護する声も。終了後、1人の保護者が府教委の担当者に歩み寄り、「信頼している子供もいるので穏便にしてほしい」と要望した。

■処分下せない…

 今回の問題は、府教委が小中学校の教員採用時に、免許状の原本ではなく、コピーの提出を認めてきたことが背景にある。コピーの提出を許可してきたのは、そもそも偽造されることを想定していないためで、府教委は今後、原本を確認するよう徹底することを決めた。

 府教委は2月20日、男性を「懲戒免職」ではなく、採用日に遡(さかのぼ)って「失職」扱いにした。そもそも教員として採用していない−と認定したためで、免職などの処分は下せないという。ただ、15年にわたって支払われた給与の返還は、実際に労働の提供があったことを踏まえれば、全額返還を求めるのは現実的に困難だ。

 府教委は、有印公文書偽造や教育職員免許法違反の疑いもあるとみて大阪府警に相談しているが、担当者は「処分はできないが、不正の重大さを考えると何もしないわけにはいかない」と頭を抱えている。

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