<柔道事故>強制起訴の元指導員に禁錮1年、執行猶予判決
毎日新聞 2014年4月30日(水)14時44分配信
長野県松本市の柔道教室で2008年5月、当時小学6年だった沢田武蔵(むさし)さん(17)に投げ技をかけ、重い意識障害が残る重傷を負わせたとして、業務上過失傷害罪で強制起訴された元指導員の小島武鎮(たけしげ)被告(41)=同市=に対し、長野地裁は30日、禁錮1年、執行猶予3年(求刑・禁錮1年6月)の判決を言い渡した。伊東顕裁判長は「技量、体格などが未熟な者が強い力で投げられ、畳に打ち付けられれば、何らかの障害が発生しうることは十分予見できた」と結論づけた。
09年5月の改正検察審査会法施行で導入された強制起訴はこの事件も含め8件ある。有罪判決は2件目だが、検察が罪に問うのは困難として「容疑不十分」で不起訴にした事件での有罪は初めて。身体の拘束を伴う刑での有罪認定も初。また、柔道事故を巡り、指導者が禁錮の有罪判決を受けたのも初めてとみられる。
判決によると、小島被告は練習中に沢田さんに片襟体落としという技をかけた。沢田さんは頭は打たなかったが、頭部に加わる回転加速度によって脳内の静脈が切れ、急性硬膜下血腫を発症した。
公判で弁護側は「被告は頭部を打たないよう注意を払っていた。頭を直接打たないのに重大な障害を負うことがあるという考えは柔道界では一般的ではなく、事故は予測できなかった」と無罪を主張した。
これに対し、伊東裁判長は沢田さんについて、「受け身の習得が十分ではなく、発育途上の小学生だった」と指摘。保険会社の調査で撮影した小島被告の技の再現映像などから「鋭く、強く投げた」と認定した。そのうえで、「力加減の点で年少者に対する投げ方の限度をはるかに超えていることは明らか」と判断し、注意義務違反と判断した。
量刑については、危険を伴う柔道の指導をする立場にあり、細心の注意を払うべき重い責任があったのに怠った過失は重大などとして禁錮刑を適用。損害賠償の和解が成立していることなどから執行猶予とした。
強制起訴事件では、飲食店で従業員の顔を押したとして暴行罪に問われた徳島県石井町長が1、2審で科料9000円の有罪判決を受け上告中だが、検察の判断は「起訴猶予」だった。その他の1審判決は▽無罪4件▽免訴1件▽公訴棄却1件。【巽賢司】
◇強制起訴
検察が不起訴にした事件で、検察審査会(検審)が起訴すべきだと2回議決すると、裁判所が指定した弁護士が強制的に起訴する制度。国民の司法参加の一環として裁判員制度とともに2009年5月に導入された。検審は、くじで選ばれた市民11人で構成。被害者らの申し立てを受けて審理し、8人以上の多数決で議決する。
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<柔道事故>柔道界に事故防止策の徹底迫る判決
毎日新聞 2014年4月30日(水)19時29分配信
柔道事故を巡り、元指導員に有罪を言い渡した30日の長野地裁判決は、一般市民で構成する検察審査会の判断を生かし、刑事責任を問えないとする検察の結論を覆した。検察の起訴権限独占を見直し、起訴すべきかどうかの判断に市民感覚を取り入れた強制起訴制度の意義が認められる結果となった。
内田良・名古屋大大学院准教授(教育社会学)の調査では、2012年度までの30年間で学校で起きた柔道事故だけでも死者は118人に上る。今回のような柔道教室での重傷事故も含めればさらに件数は多いとみられるが、刑事責任はほとんど問われてこなかった。有罪が確定したのは罰金刑の1件だけという。中学での武道必修化もあり、事故がクローズアップされたのは最近のことだ。
それだけに、今回の判決について、柔道事故の専門家は「指導方法を間違えば、刑事責任を問われることを示した。指導者に安全への意識を高めるよう促すものだ」と評価する。
被害者の思いは「何が起きたか知り、同様の事故を起こしてほしくない」ことに尽きる。地裁判決は「頭部さえ打たなければ重大事故は起きないとの思い込みを前提に指導する風潮は根深い」とあえて指摘し、「このような事情で刑事責任を大きく減じることは相当とはいえない」と言及した。柔道界には事故防止策の徹底が改めて求められる。【巽賢司】