いじめ件数、調査法で変動 東北6県教委、対応ばらばら
河北新報 2014年5月8日(木)6時10分配信
山形県天童市の中1女子自殺を受け、山形県教委がいじめ把握に全県統一アンケートを導入した結果、2013年度は2673件と前年度の約5倍に上り、調査方法と実施状況で件数が大きく変動することが明らかになった。文部科学省が毎年公表する全国いじめ調査に手法の定めや件数の計上基準はなく、東北6県教委の対応はそれぞれ異なる。専門家は「工夫した統一アンケートはいじめの早期発見だけでなく、教職員の意識啓発にも有効」と指摘する。
東北6県教委によると、全県の公立小中高校で統一した質問票によりアンケートをしているのは山形だけ。宮城と秋田は県立高校だけで実施、青森は導入実績がない。岩手と福島はひな型を示し、各学校の判断で質問項目を追加する。山形と福島は無記名、岩手は選択記名の違いもある。
山形の質問票は「冷やかし」「仲間外れ」「金品強要」など、文科省が示すいじめの9態様を14の質問に細分化した。周りと自分の過去、現在のいじめ有無に○を付けさせる。
山形県教委は「全国の先行事例を参考にしながら、具体的、簡潔な質問内容にした」と説明する。アンケート後に面談して件数をまとめた。
認知件数は、いじめが社会問題化すると増える傾向がある。山形県の場合も、1月に起きた天童市の自殺後の調査で急増した。背景には子どもたちの関心と、調査前の教職員の積極的な呼び掛けがあるとみられる。
12年度の全国調査では、児童生徒1000人当たりの認知件数が、最多の鹿児島県166.1件に対し、最少の佐賀県は2.0件。開きは約80倍で波紋を広げた。東北6県=表=でも、全国で3番目に多い宮城と、4番目に少ない福島では約12倍の開きがあった。
文科省によると、計上基準はなく、軽微な事案を含めるかどうかで判断が分かれる。アンケートも回数や記名、自由記述の有無など、形式はばらばらなのが実情だ。
こうした現状について、山形大基盤教育院の加納寛子准教授は「基準がなければ、比較はできない。県単位で統一アンケートを導入することは、学校、地域、学年ごとの実態把握に効果がある」と強調する。その上で「教職員のいじめを発見する取り組み強化、指導改善にもつながる」と言う。
鹿児島県では12年度、無記名の統一形式を初実施し、件数が急増した。仙台市は有用性を認め、同様のアンケートを昨年11月に導入した。
これに対し、宮城県教委は「教師が敏感にいじめを察知しようとしており、認知件数は多い。しっかり観察することが重要で、統一アンケートは必要ない」との見解。青森県教委は「学校ごとに工夫して調査している。現在の方法で十分把握できている」と判断する。
文科省児童生徒課は「いじめの実態を把握する観点では統一アンケートは有効だと思う。しかし、学校の規模などによってベストな調査方法が違う」と話し、導入指導には消極的な姿勢を示している。
[児童生徒のいじめ調査] 文部科学省が全国の小中高校などを対象に実施する問題行動調査の一環として1985年度に開始した。2006年度にいじめの定義をより被害者の気持ちを重視する形に拡大、国・私立学校も対象に加えた。各教委などを通じて前年度1年間の認知件数、態様、発見のきっかけ、いじめられた児童生徒への対応などの報告を求めて集計する。認知件数は、児童生徒の自殺が注目されるたびに急増し、その後減少する傾向を繰り返してきた。過去最多の19万8109件と前年度の2.8倍に上った2012年度には、大津市の中2男子自殺を受けて全国で実施した緊急調査があった。