スマホ「盗難防止アプリ」悪用、元彼女を監視したストーカー教師

スマホ「盗難防止アプリ」悪用、元彼女を監視したストーカー教師
産経新聞 2014年5月8日(木)12時30分配信

 スマートフォンの動きが何かおかしい。知人に居場所を言っていないのに、どこにいたか知られている−。広島県内に住む女性は不安を感じ、昨年7月中旬、携帯電話の機種を変更した。しかし、違和感は消えないまま。思い切って広島県警広島南署に相談した。昨年11月ごろのことだ。そして、驚愕の事実が判明した。

 知らないうちに女性のスマホは何者かによって遠隔操作されていたのだ。位置情報を確認されていたうえ、写真を撮られ、日常会話を録音されていた。さらにSDカードに入っていた写真は削除され、第三者に自分のスマホからショートメールが送られていたことさえあった。

 昨年7月中旬からの1カ月間だけで、位置情報の検索35回、音声録音666回、通話履歴閲覧399件、写真撮影2件、ショートメールの送信3件、データ削除1件−。「サイバーストーカー」による被害だった。

 ◆隙を見てアプリをインストール

 県警の捜査により、今年4月9日、不正指令電磁的記録(ウイルス)供用の疑いで広島県東広島市に住む女性の元交際相手の男(43)が逮捕された。男は同市内の中学校の英語教諭=現在は休職中=だった。

 県警によると、男は女性が席を外したすきに、海外の盗難防止アプリ「Cerberus(ケルベロス)反盗難」を彼女のスマホにインストールしていた。逮捕された際、男は「相手の行動を監視しておきたかった」と話したという。

 ◆合法アプリが違法に

 盗難防止アプリはもともと、スマホの紛失や盗難の際、遠隔操作でカメラのレンズやスピーカーを使って、場所を特定して探し出すためのもの。しかし、悪用目的で密かに対象のスマホにインストールし、パスワードとIDを設定すれば、自分のパソコンから相手の「生活」を監視することができる。

 ケルベロスの場合、撮影時のシャッター音を消せるうえ、アプリ使用によるバッテリーの消耗もなく、存在をアプリ一覧から消すこともできるため、相手に気づかれにくい。今回の被害女性は「見知らぬアプリの表示が、ついたり消えたりしていた」というが、その表示を気に留めることはなかったという。

 「ケルベロス」はギリシャ神話に出てくる冥界の番犬の名前。本来の用法通りスマホが盗まれた際に使うなら、発見するのにこの上なく便利な機能だ。しかし、ひとたびストーカーが手にすれば、恐ろしい“生き霊”に変身し、ウイルスとして飼い主に襲いかかる。

 こうしたソフトは現在、さまざまな種類が出回っている。検索サイトで「盗難防止アプリ」「一覧」と入力するだけで、20種類以上がすぐヒットするほどだ。立命館大学情報理工学部の上原哲太郎教授(情報セキュリティー)は「合法的なアプリでも、悪意をもって本人に知られないように使った場合は違法になる。そういうことを知らない人が多い」と話す。

 ◆伸びない摘発

 だが、新しいタイプの犯罪ということもあり、摘発の件数は伸びていないのが実情だ。平成23年の改正刑法に不正指令電磁的記録(ウイルス)供用罪が新設されて以降、警察庁によると、摘発件数は71件。

 その大半はアダルトサイトをインストールしたらデータを抜き取られた−などのウイルス被害で、盗難防止アプリを悪用して摘発されたのは、石川県、青森県、そして今回の広島県の事件を含めわずか3件。このうち24年12月に全国で初めて石川県警が摘発したケースでは、逮捕された男は被害者と示談が成立し、起訴猶予となっている。

 盗難防止アプリに対する摘発例の少なさについて、元検察官でサイバー犯罪に詳しい落合洋司弁護士は、「アプリは、事前に利用者に説明されている撮影や録音といったスマホが本来持っている機能を果たしており、同意がないだけでウイルスと言い切るのが難しいこともあるのでは」と指摘する。

 さらに“犯人”が交際相手のため、被害者側から捜査の端緒となる被害申告が出にくいという側面もあるようだ。広島のケースも男の逮捕は女性と別れた後だった。

 ◆スマホのロックは不可欠!?

 若い人は今回の事件をどう考えているのか。4月下旬、広島市中心部の本通で取材してみた。

 スマホを触っていた同市安佐南区の大学4年の女性(22)。恋人と付き合って約1年という彼女は「ニュースを見てぞっとした。私は彼でも画面ロックのパスワードは教えていない。スマホの中には人生があるのと一緒で、プライバシーはプライバシー。知らない間にアプリを入れられていたら、別れるかも」と憤った。

 ただ、そう警戒心が強い人ばかりではない。山口県岩国市の会社員の男性(34)は「スマホにはパスワードのロックをかけていない。自宅に帰ったら置いたままなので、妻は中を見ることができるだろう。妻の方も同じで、互いにそこはエチケットと信じている」と性善説派だった。

 経済産業省所管の独立行政法人「情報処理推進機構」の調査(平成25年)によると、スマホの画面にロックをかけているのは10代は40・9%だったが、20代で24・3%、30代21・4%、40代19・1%、50代14・6%となっており、年代が上がるに連れてセキュリティーへの意識が薄れている様子がうかがえる。

 広島県警は「被害に遭わないためには、不用意にスマホを置き去りにせず、ちゃんとロックをかけておいて」と呼びかけている。

 親しき仲にもロックあり? スマホそのものだけでなく、パートナーの心を失わないためにも、スマホにはこっそり鍵をかけておく−そんな時代になったのだろうか。(松前陽子)

この教師の前回の逮捕の記事

逮捕容疑は昨年10〜12月、広島県内に住む知人女性のIDを悪用して大手旅行会社のサーバーにアクセスし、勝手にパスワードを変更したり、旅行サイトの予約状況などを閲覧したりした疑い。

 県警サイバー犯罪対策課によると、中川容疑者は「私はやっていない」と容疑を否認している。

 昨年11月、女性から「交流サイトの自分の書き込みが消されている」と県警に相談があり、捜査していた。

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