東京女子医大男児死亡事故 真相遠い“場外戦”
産経新聞 2014年6月7日 7時55分配信
■早期公表求める大学/慎重姿勢の理事長側/再発防止願う遺族怒り
名門医大が揺れている。東京女子医大病院(東京都新宿区)で2月、男児(2)が手術後に鎮静剤「プロポフォール」の過剰投与で死亡した事故をめぐり、早期の調査結果の公表を求める大学側と、慎重姿勢の理事長側の対立が表沙汰になった。大学側が病院の調査結果公表を待たずに事実上の内部告発会見を行うなど泥沼化。事故の真相解明とはかけ離れた“場外戦”に、遺族は怒りと悲しみを募らせている。
◆会見前から“内紛”
「本来、こうした会見は理事会などが開き説明することが社会的責任だ」。5日の会見の冒頭、同大の高桑雄一医学部長は語気を強めた。
同席したのは、いずれも同学部教授の吉原俊雄氏と山口直人氏。理事長の吉岡俊正氏や男児にプロポフォールを投与した麻酔科医らの姿はなかった。
会見直前には、吉岡氏名で「あくまで(高桑氏らの)私的な会見で、いかなる意味においても本法人による発表ではない」とする文章が公表されたこともあり、報道陣からは会見の意図を問う声が飛び交った。
高桑氏はホワイトボードに法人(理事長)をトップとする大学や病院の組織図を示し、「記者会見をするよう理事会に何度も呼びかけたが反応がなく、事故から4カ月が経過した。現場の医師を教育する医学部長としての立場で、真実に基づいて話をしたいというのが趣旨」と訴えた。
病院の調査とは別に麻酔科医ら6人に独自に聴取し、麻酔科医が「禁忌と認識しながら投与した」と説明したことを明らかにした。プロポフォールが男児以外にも禁忌状態の子供に常態的に使われていた事実も認め、「驚愕(きょうがく)する」と批判した。
会見後、吉岡氏は再び文書を発表し、「内部統制の混乱が社会に出たことをおわびする」と謝罪。公式の調査結果を近く公開し、会見するとした。
◆教訓生かせず
同大では過去にも、子供が死亡する医療事故が起きている。平成13年3月、群馬県高崎市の当時12歳の女児が心臓手術のミスで死亡し、手術責任者だった元同病院の男性医師がカルテを書き換えたとして証拠隠滅容疑で逮捕、起訴された。
このとき、引責辞任した笠貫宏心臓血圧研究所長は現在、同大で学長を務める。笠貫氏は当時、「安全管理に努力してきただけに痛恨の極み。改革に取り組まねば」としていた。同大関係者は、「このときの経験があるからこそ、笠貫さんの『脱・隠蔽(いんぺい)体質』への意気込みは強い」と打ち明ける。だが、改革派の思いとは裏腹に、理事長側の動きは鈍かった。
◆命の重さ軽視?
今回の事故以前にも、同大では病院を含む全施設で火災報知機が28年間にわたって鳴らない状態になっていたり、耐震基準に満たない建造物があることなど、さまざまな問題が内部調査で明らかになっていた。しかし、病院関係者によると理事長側は問題視しない態度を示し、改善されなかったという。
5日の会見で、「過去の隠蔽体質から何も変わっていないのではないか」と問われた高桑氏は、「多くの人間は絶対に隠蔽しないと肝に銘じているが、病院は機能していない」と批判。「命の重さが軽視されている」と繰り返した。
一方、同席した吉原氏が自身が男児の執刀医であることを明かしたうえで、「鎮静剤を投与する麻酔科医との情報共有や連携不足は否めず、男児の死亡は痛恨の極み」と非を認めた。
男児の父親は先月の会見で「病院と対立したいわけではない。なぜこんなことが起きたのか明らかにしてほしいだけ。事故で亡くなる人がいなくなってほしい」と涙ながらに訴えていた。
慶応大学医学部教授で弁護士の古川俊治氏は「禁忌薬を使う場合は患者への説明や病院内部の倫理委員会の承認を得ることが通例。こうした手続きがなされていないことは問題だ。意識を変えねばならない」との見方を示した。