<バルサルタン>ノバルティス元社員逮捕 試験データ改ざん

<バルサルタン>ノバルティス元社員逮捕 試験データ改ざん
毎日新聞 2014年6月11日 11時36分配信

 降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)の臨床試験疑惑で、京都府立医大の臨床試験データをバルサルタンに有利になるよう改ざんし、論文に掲載させた疑いが強まったとして、東京地検特捜部は11日、製薬会社ノバルティスファーマ元社員、白橋伸雄容疑者(63)=神戸市北区=を薬事法違反(虚偽広告)容疑で逮捕した。特捜部は、虚偽のデータに基づいて執筆・掲載した論文が、虚偽の薬効を記述した広告物に当たると判断した。今後さらに実態解明を進めるとみられる。

 逮捕容疑は2010年11月〜11年9月ごろ、京都府立医大の臨床試験で、バルサルタンと別の降圧剤の効果を比較した際、脳卒中などの発生数について、バルサルタンに有利な結果が出るようにデータを操作した図表を同大の研究者に提供。それを基に論文を執筆させたうえ、専門誌に投稿させたり、同年10月ごろ論文出版元の会社のホームページに掲載させたりし、不特定多数が閲覧可能な状況にして、バルサルタンの効能や効果について虚偽の記事を記述したとしている。

 特捜部によると、白橋容疑者はデータ解析を行う際、バルサルタンを服用して脳卒中を発症した患者を少なくする一方、ほかの降圧剤の脳卒中発症者を水増しするなどして、統計的な差が明確であるようにみせかけていた。

 特捜部は今年2月にノ社などを家宅捜索後、大学や試験に協力した関連病院に保存されていたカルテを押収し、分析を進めるとともに、試験に関わった複数の医師らからも事情の説明を求めてきた。大阪市立大の非常勤講師の肩書で臨床試験に参加し、主にデータ管理に携わった白橋容疑者が、データ改ざんに関わった可能性が強まった。

 京都府立医大の試験は04年に開始。約3000人を対象に、バルサルタンを投与する患者と、バルサルタン以外の降圧剤を投与した患者にグループを分け、降圧作用や心臓、腎臓、脳疾患の発症頻度などを比較した。その結果、バルサルタンを服用した患者の方が、脳卒中の発症例が明らかに低かったなどと結論づけた。

 だが、論文不正問題の浮上を受けた同大の調査で、09年1月の試験終了直後に作成されたデータと、このデータを基に同4月に作成された解析用データでは、数値が改変されていたことが分かった。

 バルサルタンの臨床試験は京都府立医大と、東京慈恵会医大、滋賀医大、名古屋大、千葉大の5大学で実施。慈恵医大の研究でも、脳卒中予防の効果があるとの結論が出ていたが、京都府立医大と同様にデータに改ざんされた形跡があるという。白橋容疑者はこの5大学すべての臨床試験に関わっていた。

 疑惑を巡っては厚生労働省が今年1月、不正に関わった個人の特定に至らなかったとして氏名不詳のまま同容疑で東京地検に告発。民間の「薬害オンブズパースン会議」(代表・鈴木利広弁護士)も告発していた。【吉住遊、山下俊輔】

 【ことば】虚偽広告

 薬事法は、医薬品や医薬部外品の効能や効果などについて、虚偽または誇大な広告、記述、流布をしてはならないと定めている。医療関係者だけでなく、すべての人が対象で、違反した場合は2年以下の懲役または200万円以下の罰金に処せられる。

 ◇「会社に裏切られた」白橋容疑者 組織関与どこまで

 統計解析の知識を基にバルサルタンの臨床試験に関わってきたノバルティスファーマの元社員、白橋伸雄容疑者(63)。これまで各大学や厚生労働省の調査に応じつつも「統計解析のアドバイスをしただけ。データ操作はしていない」などと、強く不正への関与を否定してきた。

 白橋容疑者は、大学の工学部を修了し、ノ社の前身である製薬会社に入社した。当初は医薬品の営業を担当。その後、同じ営業所にいた後輩から統計学を学んだという。医師の相談に繰り返し応じるうちに専門性を高め、いつしか「統計の専門家」として社外でも知られる存在になった。元同僚らは「学究肌」と評すが、千葉大の調査では、統計解析方法の根本的な間違いが指摘された。

 ノ社に勤めつつ2002年から11年間、大阪市立大の非常勤講師となったが、同大によると、この間に行った講義は1回程度だけだった。この肩書でバルサルタンの臨床試験の論文に登場していたことが疑惑を深めることとなった。

 一連の論文はバルサルタンの売り上げに大きく貢献し、09年に社長賞を受賞している。定年退職後も契約社員としてノ社に残っていたが、昨年春に疑惑の中心人物に浮上すると同年5月に退職した。このころ、知人男性に「会社が自分のせいにしようとしている。裏切られた」と不満げに話したという。

 この知人は白橋容疑者について「以前、バルサルタンの試験結果を使った宣伝の在り方を批判していた。その彼がデータ操作したなんて考えられない」と話した。ある研究者は「控えめな人。こちらの質問には答えるが、出しゃばって仕切るタイプではなかった」と振り返る。【河内敏康、八田浩輔】

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