教師の行き過ぎた対応で自殺 「指導死」の実態知って

教師の行き過ぎた対応で自殺 「指導死」の実態知って
東京新聞 2017年1月20日

 「指導死」という言葉が教育現場で認知され始めている。教師の不適切な指導をきっかけに、子どもが自殺に追い込まれることを示しており、新潟県では、県教育委員会が設置した第三者委員会の報告書でも引用された。今月三十日には、言葉を考えた遺族が教員を目指す学生に「指導死をこれ以上出さないで」と訴える。 (細川暁子)

 新潟県で二〇一二年夏、高校三年の男子生徒=当時(17)=が、部活動の顧問教諭に指導を受けた当日に自殺した。第三者委員会の報告書によると、生徒がインターネットの会員制交流サイト(SNS)に部活動に積極的でない他の生徒に対する不満とみられる書き込みをしたのが、指導のきっかけだった。

 教諭が生徒を問いただし、生徒にその場で書き込みを削除させた上、「おまえは教師を目指しているようだが、うまくいかない生徒に愚痴を言っても何も始まらない」などと、教師という仕事が不向きであるかのような発言をした。

 第三者委員会は、遺族の訴えで設置され、約二年にわたって教師や部員らから聞き取り調査。昨年七月に報告書を公表した。報告書では「生徒指導が(自殺の)最大の要因であったことは否定できない」と結論付けた上で、指導死という言葉や指導後に自殺した他の子どもの例を紹介。「指導は時に生徒の自殺の契機になりかねないリスクをはらんでいる」と指摘した。

 指導死により息子を失った遺族で、指導死という言葉を考えた大貫隆志さん(59)=東京都中野区=は、「この調査は画期的」と目を潤ませる。生徒の自殺が、教諭の行きすぎた指導の結果だったと認められた事例は少ないためだ。

 大貫さんの次男、陵平さん=同(13)=は〇〇年に自殺。通っていた埼玉県新座市の中学校で、他の生徒二十人と菓子を食べたことが教諭に見つかったのがきっかけだった。

 大貫さんが学校に聞いたことによると、指導は約一時間半に及んだ。会議室で教諭十二人が生徒を詰問し、一緒に食べた生徒の名前を言わせた。反省文を書き、学年集会で二度と同じことをしないと決意表明することを約束させたという。陵平さんが命を絶ったのは、その翌日だった。大貫さんの調査要望に、中学校は「自殺は学校と関係ない」と拒否。市教委も聞き入れなかったという。

 大貫さんは〇八年に「親の会」を設立。同じような状況で子どもを亡くした全国の遺族約二十人が会員になっている。一二年から毎年、シンポジウムを開き、会員以外の遺族の相談にも乗ってきた。

 親の会は、▽複数教員による長時間の指導▽他の生徒の違反行為を密告させる−といった行為が、生徒を追い詰めてしまうと主張。子どもが指導後に自殺した場合は、学校が調査することや、指導は管理職の了承を得て行うこと、ガイドラインの作成などを文部科学省に求めてきた。

 新潟県の事例以外にも、第三者委員会を立ち上げる例が出始めている。東京都大田区教委は、昨年五月に自殺した中学一年の男子生徒=同(13)=の指導実態を調べる第三者委を今月末にも設置する予定だ。区教委によると生徒は亡くなった当日、菓子を上着に入れていたとして男女二人ずつの教師から約二十分指導を受けていた。

 大貫さんの講演会は日本体育大(東京都世田谷区)の学生が対象。企画した同大スポーツ危機管理学研究室の南部さおり准教授は「精神的に未熟な子どもは大人が思っている以上に傷ついてしまう。遺族の話を通して、生徒のしかり方など学生には言葉の重みを感じてほしい」と話す。

関連記事

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする