岩手17歳バレー部員は「遺書」に何を書いたか
東洋経済オンライン 2018/10/13(土) 6:00配信
バレーボールU18代表候補に選ばれるほどの才能を持った生徒が、なぜ命を絶たなければならなかったのか――。
岩手県立不来方高校(紫波郡矢巾町)の男子バレーボール部に所属していた3年生の生徒が、7月3日に自死した。そのわずか半年前には春高バレーに出場。中学では日本選抜(12人)入りし、この3月には高校日本選抜を決める最終合宿まで残るほどの逸材だった。
筆者はこれまで、大阪市立桜宮高校バスケットボール部で起きた体罰による自死など、間違った指導が未成年の自死につながった事件について取材をしてきたが、今回の事件には違和感をもたざるをえない部分が多くある。
息子を失った両親に連絡を取ると、息子に対してきつい指導をしたとされるバレーボール部の顧問(41)、また岩手県教育委員会に対して、提訴する準備もあるという。
さらに10月13日、スポーツ庁と文部科学大臣宛てに、両親がパワハラ根絶対策の全国的な点検を懇願する面談を求める文書をすでに提出したこともわかった。筆者の取材に応じた両親と担当弁護士が今、訴えたいことは何か。
■自宅での様子はいつもとなんら変わらなかった
「朝起きてこないので、部屋に起こしに行ったら……。もう亡くなっているとわかっていましたが、救急車を呼びました。とにかく何が起こったのか、すぐにはのみ込めなくて……」
母親は嗚咽しつつも、その朝のことを振り返ってくれた。
母親はすぐさま、単身赴任中だった生徒の父親に電話をした。そして次に知らせたのは、いま提訴を考えているバレー部の顧問だった。母親は顧問とは子どもの部活のことで頻繁に連絡を取り合う関係だったのだ。
「なぜこんなことになってしまったのか、まったく見当もつきませんでした」
振り返ってみても、自宅での様子はいつもとなんら変わらなかった。亡くなる2日前、7月1日には天皇杯県予選決勝を実業団と戦っていた。敗れたものの、「(実業団に)初めて1セット取れたね」と母親が言葉をかけるとうれしそうな表情を浮かべていたという。しかし、それが息子の最後の試合になった。
5日後、7月8日には遺書が見つかった。「勉強机の引き出しのいちばん下に、隠すようにしまわれていました。日付はないので、いつ書いたのはわかりませんが」
そう話す父親は、遺書を読んだ瞬間「原因は顧問の指導ではないかと思った」と言う。
遺書は「こんなことをしてしまって本当にごめんなさい。許して下さい」から始まる。
「何度も相談に乗ってもらおうと思いましたが、きっとバレーはやめられないと思うので、(中略)きっとバレーをやっていなければ何も自分にはなかったと思いますが、それでも生きているのがとてもつらかったです」
「先生からも怒られ、バレーボールも生きることも嫌になりました。ミスをしたらいちばん怒られ、必要ない、使えないと言われました」
■人格を全面否定する言葉の暴力
父親は「バレーがこんなに嫌いになっていたなんて気づかなかった」と愕然としたという。
母親は「勝てば楽しいけど、ミスしたり、何かができないとつらいとは話していた。生き生きしているときもあったのに……高校になって怒られるようになってバレーが嫌いになったと書かれていた」と肩を落とす。
「やさしい子でした。必要ない、使えないという言葉がいちばん堪えたと思う」と母親は言う。父親は「自分の人格を全面否定する言葉によって、息子は追い詰められていったのではないか。言葉の暴力です。顧問はまだ41歳。このままではまた同じ事件が起きる気がします」と顔を歪めた。
遺書だけでなく、県教育委員会が作成した調書がある。文科省通達の「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針(改訂版)」にのっとり、7月下旬から8月初旬にかけてまとめられた。対象は、バレー部員や教員など関係者53人。調査書はA4で20ページにわたり、部員や他教員に、顧問による亡くなった生徒に対する言動などを聴き取りしている。
そこには「おまえのせいで負けた」「部活やめろ」といった数々の暴言、さらに、助言を求めても無視するなど生徒を心理的に追い込む行為があったことが、合わせて44項目も挙げられている。
調書を読んだ両親によると、生徒が「ひとりで教官室に呼ばれることも少なくなかった」との証言もあったという。生徒と密室で2人何を話していたのか、内容を知るのは顧問だけだが、その詳細は明らかにはなっていない。
調書の中にあったこんな言葉に、両親は驚いたという。たとえば
「代表に選ばれているのにどうしてできないんだ」
「背はいちばんでかいのに、プレーはいちばん下手だな」
など。まさに言葉の暴力だ。
6月の全国高校総体決勝で敗れたあとには、「おまえのせいで負けた」と言ったという。亡くなる3日前にも、「だから部活やめろって言ってんだよ」「もうバレーするな」といった強い言葉を浴びせていた。
■言葉の暴力ならいいのか
2012年12月に大阪市立桜宮高校バスケットボール部で顧問の暴力やパワハラを苦に17歳の男子部員が命を絶った事件を機に、スポーツ界と教育界は暴力根絶に舵を切った。「体罰はいけない」という認識は、少しずつだが広まってきたはずだ。
だが「暴言」や「無視」など、言葉の暴力やパワハラ的な態度についてはどうだろうか。学校現場は「体罰」さえなければ平気だと思ってはいないだろうか。生徒を従わせる側が発する言葉の重みを軽く考えてはいないだろうか。
続く後編記事では、顧問と学校側による不可解な行動について取り上げていく。
なお岩手県教育委員会は今日10月13日午後から、遺族側の要望に応える形で面談する予定だという。遺族側との面談は初めて。その席で顧問の指導内容や校長の対応、11月2日に開幕する春高バレー岩手県予選に現顧問が引率して出場するかどうかなどの見解を述べると思われる。遺族は面談後、記者会見する予定だ。
教諭は別の高校のバレー部で顧問をしていた2008年に暴言を吐いたなどとして元部員から訴訟を起こされた。一審は一部不法行為を認め、現在も控訴審が続く。生徒の自殺後に係争を知った父親は「言葉の暴力による異常な指導があったことは明らかで、これが死につながった。不適格な教員を指導に当たらせていた学校や県教委も問題だ」と指摘。刑事告訴も検討している。
それが、これ