教師に「職員室からスマホ持ち出し禁止」させた教育委員会の言い分
デイリー新潮 2019/12/7(土) 5:57配信
料理に欠かせぬ包丁は、人を殺める武器にもなる。扱う者のモラルが問われるわけだが、静岡県浜松市の場合はどうだろう。市の教育委員会が、教師たちのスマホを職員室から持ち出し禁止にしたのだ。生徒たちから預かるならまだしも、なぜオトナに不便を強いる決定が下ったのか。
浜松市教育委員会は、11月18日に臨時校長会議を開き、市内の小中高校における「教職員のSNS利用に関するガイドライン」を提示した。遅くとも12月までに施行されるこの手引き。法令順守の観点から授業中の私的利用や、児童及び保護者との個人的なやり取りを禁じているが、全くもって意味不明、思わず首を傾げたくなるのはこの一文だ。
〈原則として個人のスマートフォンは職員室等で管理し、児童生徒の活動場所には持っていかない〉
例外も認められ、教育活動で必要があれば、その都度、校長が判断して教師に持ち出しの許可を出せる。
ところが、市内のさる中学校の校長に尋ねてみると、
「部活動などで体育館やグラウンドで指導する際は、緊急時に備えて顧問がスマホを持っていましたが、これからはトランシーバーで対応することにしました」
だが、静岡は東南海地震などの大地震がいつ起きてもおかしくない地域である。
その点を校長に問えば、
「緊急地震速報をキャッチしたら、職員室の人間がスマホを持っていますから、すぐにトランシーバーで連絡を取ります。確かに多少のタイムロスはありますが、伝わってはいきます……」
なんとも歯切れが悪い。さらに、この校長はこんな懸念を明かすのだ。
「学校のWi-Fi環境が不十分で、市から供与されたパソコンでは再生に時間がかかる。そのため先生たちは授業で使う資料画像や動画などを自分のスマホを使って見せていたのですが、今は非常事態なので要望があっても使用を控えて貰うしかありませんね」
「トイレで盗撮事件」
そうまでしてスマホを遠ざけるのは何ゆえか。
「スマホの存在自体が、子供や保護者を不安にさせているのが、強い指針を出した大きな理由です」
と話すのは、ガイドラインを策定した市教委の責任者である花井和徳教育長だ。
「学校は安心して学べる場、人権を侵害されてはならないところですが、8月以降、教師によるスマホを使ったトイレでの盗撮事件などの不祥事が立て続けに5件起こってしまいました。そのため、先生たちは疑惑の目に晒され、教室でスマホを使っているけど本当に授業のために使っているのか、といった苦情も保護者の方々から届きました。ある校長からは、モラルの問題ではないかという声も出ましたが、まずはルールを定めて信頼回復に努める必要があると判断しました」
現場の弊害には目を瞑り、“外圧”に屈した格好だが、浜松市のトップである鈴木康友市長を直撃すると、
「うん? 教育委員会の話ですから。全部、教育委員会に聞いてください」
と言って立ち去ろうとする。肝心の首長が他人事では、センセイたちのストレスは溜まるばかり。また再び“スマホ盗撮”が起きなければいいのだが……。
「週刊新潮」2019年12月5日号 掲載