入試で女性差別、否認続ける聖マリアンナ医科大 「泣き寝入りはしない」元受験生が提訴へ

入試で女性差別、否認続ける聖マリアンナ医科大 「泣き寝入りはしない」元受験生が提訴へ
毎日新聞 2020/10/14(水) 5:00配信

 女性であることを理由に入試で差別的扱いをされ精神的苦痛を受けたとして、聖マリアンナ医科大(川崎市)を受験した女性4人が14日、同大に慰謝料などを求めて東京地裁に提訴する。文部科学省は計10大学に対して男女差別などがあったと指摘しているが、同大のみが認めておらず、さらに客観的証拠を基に不正を認定した第三者委員会の調査結果が出た後も追加合格などの措置をとっていない。同様の訴訟は東京医科大や順天堂大に対しても提起されているが、被害弁護団は今回、聖マリ医大の姿勢が悪質として、慰謝料の請求額を増やす方針だ。医学部を目指し、約6年間浪人を続けている原告の一人が毎日新聞の取材に応じ、「差別があった事実を認めてほしい」と憤りを語った。【牧野宏美/統合デジタル取材センター】

 ◇手応えあったが不合格に あきらめきれず6浪中

 「不正を知り、許せない気持ちでいっぱいになりました」。女性は20代で西日本在住。両親ともに医師で、医師の少ない地域で患者を救ってきた姿を見て、「自分も人の役に立ちたい」と医師を志すようになったという。

 2015年から複数の私立の医学部を受験したが不合格が続き、18年に聖マリ医大を受けた。塾の講師から「私立は(複数年浪人する)多浪生や女性が合格しにくい傾向があるが、聖マリ医大は面接などの2次試験も点数を明記していて公正だ」とアドバイスがあったからという。

 すると、これまでなかなか突破できなかった1次試験(学科試験)に合格し、面接練習など対策をして臨んだ2次試験も手応えがあった。「今回はいけるかもしれない」。期待を持ったが、結果は不合格。落胆は大きかった。父親から「年齢的に、もうあきらめた方がいいのではないか」と言われ、翌年、別大学の薬学部に合格して入学した。しかし、どうしても医師の夢をあきらめきれず、1年生の途中で退学。予備校の寮に入り、今も浪人生活を続けている。

 ◇否認で強まる憤り 「差別認め、正しい試験結果出すべきだ」

 聖マリ医大の不正を知ったのは昨年秋ごろ。母親から電話で聞かされた。「これまで女性差別を感じることなく育ってきて、まさか自分がその当事者になるなんて思いもしませんでした。男女関係なく必死に勉強してきたのに、と憤りを感じました」。さらに苦労して進んだ2次試験で巧妙な形で不正が行われていたと分かり、ショックを受けたという。

 大学が不正を認めていないことで、その憤りは一層強まった。「泣き寝入りはできない。大学は差別があったことをきちんと認め、本来の点数や合否の結果を明らかにするなど、正しい対応を取るべきだ」と提訴を決めた。

 受験勉強に集中するため、法廷での意見陳述などは見送るつもりだが、多くの人にこの問題に関心を持ってもらいたいという。「今も女性差別が存在し、苦しんだり悲しんだりしている人がいるということを知ってほしいのです」

 ◇配点明示しない「出願書類」で得点調整 男女差最大80点

 弁護団によると、取材に応じた原告以外の3人は、いずれも20代の女性。4人とも15〜18年度に聖マリ医大を受験していた。訴状によると、聖マリ医大では、一般入試は1次の学科試験(英語、数学、理科の計400点)の合格者に、2次試験(小論文、面接=各100点、適性検査=参考)を実施し、1次と2次の成績に「出願書類」(志願票・調査書)を総合して評価した上で合格者を決定するとしていた。

 ところが第三者委の調査で、遅くとも15〜18年度入試で、具体的な配点が示されていない「出願書類」で得点数を調整し、性別を理由としてほぼ一律に差別的な扱いを行っていたことが明らかになった。第三者委が15〜18の各年度の出願書類の点数を分析したところ、女性は同じ現役の男性や同じ浪人年数の男性と比べて、得点数にほぼ一律の差がつけられていた。得点差は年度ごとに異なっていたが、なかでも18年度は男女間に80点もの開きがあり、これは4年間で最大だった。また、大学のパソコンに残っていた16年度の資料には「男性調整点」という項目があり、「19・0」という数字が記されていた。これは同年度の男女の得点差(19点)と一致していた。

 同大の元入試委員長らは得点調整を否定しているが、第三者委が元入試委員長らに対し、出願書類の性別や年齢を黒塗りにした上で抜き打ちで「模擬採点」をさせたところ、実際の点数と大きな開きがあり、低評価だった女性や多浪生に逆に高い評価が出る傾向が出た。

 これに対し、聖マリ医大は「結果的に属性による点差が生じた」という趣旨の見解を示し、「一律機械的に評価を行ったと認識していない」と差別を否定。2次試験に進んだ元受験生(入学者や辞退者を除く)に対し、受験料相当額を返還する対応は取っているが、得点調整がなければ合格していたかどうかなどの情報を開示していない。

 原告側は「性別を理由にした一律の差別的取り扱いは、入試の本質である『公正・公平』を著しく損なう違法な行為。しかも第三者委が明確に不正を認定した後も不合理な弁解を繰り返し、私学助成金減額の社会的制裁を免れ続けていることは強い非難に値する」と指摘。「大学の怠慢と不誠実によって(正当な)試験結果を知ることもできず、受験生らの精神的苦痛は増すばかりだ」と訴え、他大学への訴訟では1人あたり200万円とした慰謝料請求額を300万円に増やす予定だ。

 ◇文科省も問題視するかたくなな姿勢 助成金減額なしで「逃げ得」批判も

 聖マリ医大の「入試での不正はなかった」という姿勢は2年近く続いており、文科省も問題視してきた。

 最初に指摘を受けたのは、18年12月公表の文科省の調査だ。そこでは同大を含む私立9校、国立1校で女性差別や浪人生差別などの問題があったとしたが、同大のみが差別の存在を否定。このため文科省は「不適切の可能性が高い」との認定にとどめ、第三者委を設置して調査するよう求めた。

 19年3月に設置された第三者委は、同年12月に報告書をまとめた。その内容は上述した通りで、関係者のパソコンなどに残されていた資料など客観的な証拠に基づいて不正を認定した。ところが、大学はなおも不正を否定。本来、不正があれば私学助成金減額などのペナルティーを与えられるはずだが、これまで不正を指摘された大学は慣例的にその内容を受け入れる「自認」を前提としているため、聖マリ医大は18、19年度と2年連続でそれぞれ満額の約22億円、約21億円を受け取った。これには「逃げ得だ」という批判が集まった。

 ◇統計学による新証拠「男女得点差は偶然では生じない」でも大学は…

 文科省は大学側に「証拠に基づいた合理的な説明を」と求め続けたが、同大は「点差は偶然起きた」などと回答。次の入試シーズンが近づき、業を煮やした文科省は今年9月初め、大学側に新たな「証拠」を突きつけた。それは男女間の点差について「偶然起きたとはいえず、作為的なものだ」とする統計学の専門家による分析結果だった。

 どういうことか。

 例えば、15年度の2次試験の得点分布を見てみよう。受験者343人の得点は0〜78点の13通り(0、10、18、20、28、30、38、40、48、50、58、68、78)だった。そのうち男性203人全員が7通り(18、28、38、48、58、68、78)の点数に集中し、女性140人全員が残りの6通り(0、10、20、30、40、50)の点数に集中している。

 つまり、成績の上位、中位、下位グループいずれでも男性にしかない点数、女性にしかない点数が存在している。さらにその現象が18年度まで4年連続で続いていたことから、点数の偏りは男女の能力差ではなく、作為的な点数の割り振りがあったというのだ。

 ◇私学助成、ようやく減額へ

 これに対し、大学側はどう答えたか。

 9月28日付の回答は、驚くことにまたも不正を認めないとする内容だった。男女の点数差について「あくまでも評価担当者らが受験者の出願書類を個別に評価し、評価担当者らの心証による総合評価を行った結果だ」と説明。「心証」による採点が似通った点については「評価担当者らの『将来良き臨床医』となるために必要な資質についての評価の方向性が類似していた」とし、「偶然説」を死守している。

 もう合理的な回答は得られない――。そう判断した文科省は今月1日、大学の理事長と学長、医学部長を呼び出し、「不適切であるとみなさざるを得ない」と通告。大学が否認のまま不正を認定する異例の対応で、これに伴い私学助成金はようやく減額される見込みとなった。

 ◇通告後も「主張は変えない」 原告「うやむやに終わらせるな」

 ようやくペナルティーが科されることになったものの、大学側はなおも否認の姿勢を崩していない。文科省の担当者によると、通告した場でも理事長らは9月28日の回答と同じ内容を繰り返していたという。当初は助成金目当てとの見方が強かったが、文科省などによると、10月下旬に開かれる日本私立学校振興・共済事業団の運営審議会で減額が決定されれば、大学側は不服があっても助成金の申請そのものを取り下げるしか対応策がない。その場合は助成金をまったく受けられなくなるという。

 もはや否認してもほぼメリットはなさそうだが、なぜここまでかたくななのか。文科省の担当者も被害弁護団も「本当に分からない」と首をかしげる。

 毎日新聞は3月に続き、聖マリ医大に理事長ら幹部への取材を申し込んだが、断られた。広報担当者は「助成金の減額は決定されれば従うしかないが、主張は変わりません」とだけ答えた。

 前述した原告の女性は怒りのこもった静かな声で語った。「不正を認めれば大学の名に傷が付くとでも考えているのでしょうか。でも、差別された受験生の苦しさに向き合わず、反省も謝罪もないままうやむやに終わらせることは許されないと思います」

 大学は元受験生の切実な声に、真摯(しんし)に耳を傾けるべきではないだろうか。

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