わいせつ教員の「悔恨の言葉」、現場に伝え綱紀粛正
読売新聞オンライン 2020/12/26(土) 15:53配信
わいせつ行為で処分される教員が増えていることを受け、各地の教育委員会は臨時の校長会を開催したり、処分された教員の気持ちを知ってもらうために「悔恨の言葉」を伝えたりする取り組みを通して、綱紀粛正を図っている。今月22日に公表された昨年度の処分者は273人で、過去2番目の多さ。有識者は「管理職の研修だけではなく、実効性がある対策も講じるべきだ」としている。(鯨井政紀、江原桂都)
■■「自分の弱さ……」
わいせつ事案で懲戒免職となった教員が、今年度、6人に上っている千葉県教育委員会。
不祥事を食い止める新たな取り組みとして、これまでに処分を受けた教員たちの言葉をまとめ、現場の教員に伝えることにした。
〈直接、子供たちに罪を償うことができない〉〈自分の弱さで、自分で自分を止められなかった〉――。まとめられた「言葉」には、調査の中で教員たちが漏らした悔恨の思いが並ぶ。
県教委の担当者は、「現場の教職員がこれを目にして、『ハッ』と思い、処分を受けた教員の後悔を知ることで、わいせつ事案の防止につなげたい」と話す。
■■会議や研修
「子供たちは修学旅行にも行けず、文化祭もない。そうした中で、教職員が不祥事を起こすことは申し訳ない気持ちでいっぱいだ」
埼玉県教委では11月30日、政令市のさいたま市を除く62市町村教委を対象に臨時の教育長会議を開催し、その後、高田直芳教育長は報道陣にこう述べた。
千葉市教委も10月、校長や教頭ら56人を集め、「コンプライアンス研修」と銘打った講義を実施。講師を務めた千葉大の後藤弘子教授(刑事法)は、「皆さんには子供の安全を守る義務と責任がある。子供からの被害申告を疑わず、否定しないで」と語りかけた。
ある小学校の男性校長は「管理職から見るとよい先生に見えることもある。だが、子供側からの視点を持たねば、この問題はなくならないと思った」と話す。
このほか、香川県や高知県、中学校の教頭がわいせつ誘拐罪などで起訴された静岡県沼津市などでも、臨時の校長会などが開かれている。
日本大の末冨芳(かおり)教授(教育行政学)は「管理職を対象にした研修を実施するだけでは意味がない。全教員、全児童生徒を対象にアンケートを実施している教委もあるが、こうした調査が全国に広がれば、おのずとわいせつ事案防止の意識は高まっていく。実効性がある対策、予防策とは何かを考え、教委には対応をしてほしい」と話している。
■「子供 被害認識難しい」…漫画家さいきまこさん
講談社の電子雑誌「ハツキス」で、保健室の養護教諭を主人公に、学校での性暴力やわいせつ教員問題を描いた漫画昨年10月から連載している漫画家さいきまこさんに話を聞いた。
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子供たちにも手の届きやすい漫画を通して、わいせつ教員問題の「根深さ」「難しさ」を発信したいと思い、描いている。
被害を受けた児童生徒、学校関係者、弁護士ら約30人に話を聞いて分かったことは、わいせつ行為をされた子供たちは、「自分が被害に遭った」と認識するのが難しいということだ。
小学生だと「何か気持ち悪いことをされている」と思うかもしれないが、そもそも性的なことの意味が分からない。中高生になるとその意味は分かっても、「まさか信頼する先生がそんな悪いことをするわけがない」と思ってしまう。
先生は絶対の存在で、成績評価を下す立場にもあり、「先生の言うことを聞くのは当たり前」という権力関係がある。恋愛関係に持ち込むことで、「私は先生から選ばれたんだ」という気持ちにさせて手なずけることもできてしまう。
大切なことは、わいせつ教員の問題をタブー視せず、保護者や教員、教育委員会の関係者たちが、現状の異常さについての認識を共有することだ。社会でも問題意識を共有し、声を上げた被害者が決して二次被害を受けることがないよう、漫画を通して貢献していきたい。