学校側「15歳。危険予知は可能」 半身不随のチア元部員親が涙

学校側「15歳。危険予知は可能」 半身不随のチア元部員親が涙
毎日新聞 2021/4/22(木) 8:53配信

 「当時15歳であるから、ある程度の危険予見は可能」――。21日名古屋地裁で開かれたチアリーディング部練習中に大けがをしたのは、安全対策が不十分だったなどとして元女子部員(18)が岡崎城西高校(愛知県岡崎市)を運営する学校法人に損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論。請求棄却を求めた学校側の主張は、元部員側の責任を追及するものだった。専門家からは、本来、子どもの健康を保証すべき学校側の姿勢に疑問を呈する声も。両親が毎日新聞の取材に応じ「なぜ対策が取られなかったのか。学校側は私たちに向き合って」と涙を浮かべて訴えた。【川瀬慎一朗】

 現在、元部員は車椅子で大学に通い、心理学を学ぶ。母親は仕事をやめ、片道1時間、高速道路を使って送迎している。母親は「娘は神経を痛めたため体調を崩しやすく、送った後も毎日心配」と語る。元部員は事故でふさぎ込み、「何もしたくない」と将来を悲観していたころもあったという。今も下肢が動かず感覚がないが、装具をつけて立つ練習をするなど努力を重ねている。

 活発だった元部員は小学生の時からチアダンスを始め、アクロバティックな技が加わるチアリーディング部にあこがれた。2018年4月、同部が全国大会の出場経験もある強豪として知られる同校に入学した。

 練習はほぼ毎日あり、朝練、昼練、夕練と続く。父親(55)は「帰宅は午後9時を過ぎることもあり、毎日疲れている様子だった」と語る。同部では、当時部員だった姉(19)も事故の数カ月前に脳しんとうで救急搬送されていたという。指導者不在の時間も多く、練習メニューは先輩が作っていた。母親(48)は「先輩が『やるよ』と言えば従わざるを得ない状況だったのだろう」と話す。

 学校側はこの日の口頭弁論で「部活の援助は正規の教育課程より副次的にとどまる」「元部員らは必要なら学校に安全対策を求める行動が求められる」と主張。これに対し、学校の事故に詳しい名古屋大の内田良准教授(教育社会学)は「部活は課外活動のため場所や人など制度設計の不十分さが問題だが、それを逆手に取って生徒側の責任を指摘している。学校でやる以上、少なくとも子どもの命や健康の保証はしなくてはならない。(部活強豪校として)散々部活を利用しておきながら、『生徒の自主的活動』ではあまりに無責任ではないか」と話している。

 岡崎城西高校(愛知県岡崎市)でチアリーディング部の練習中に下半身まひの大けがを負ったのは、安全対策が不十分だったためとして、今春卒業した元女子生徒(18)が同校を運営する学校法人安城学園を相手取り、約1億8千万円の損害賠償を求める訴訟を名古屋地裁に起こした。
 訴状によると、元生徒は1年生だった2018年7月、他の部員2人の肩に乗り、前方宙返りをしながら飛び降りる技の練習中、マットに首や肩甲骨付近から落下。下半身まひの後遺症が残った。事故時、顧問教諭やコーチはおらず、元生徒は入部4カ月で技の習得が不十分な中、補助者を付けずに練習していたという。
 顧問教諭は具体的な技術指導や安全指導をコーチに一任、非常勤講師であるコーチは「自身は責任者ではない」との認識だったという。元生徒側は「責任者不在の状態だった」と訴えている。
 元生徒の両親は「学校側が事故の重大さを理解しているか疑問。私たちや事故に向き合って裁判に臨んでほしい」とコメント。安城学園の担当者は取材に「事故の責任を痛感し、反省している。誠実に対応し、地裁の判定が出れば従う」と話した。

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