わいせつ処分歴隠し学童再就職、児童にまた被害…情報共有の仕組みなし

【独自】わいせつ処分歴隠し学童再就職、児童にまた被害…情報共有の仕組みなし
読売新聞オンライン 2021/9/25(土) 15:00配信

 「放課後児童クラブ(学童保育)」や障害児が利用する「放課後等デイサービス(放課後デイ)」で、子供が施設職員からわいせつ行為を受けている問題では、わいせつ事案で退職するなどした職員が、その事実を隠して別の施設に再就職するケースもある。読売新聞の全国調査では約8割の自治体が、職員の採用時に過去の退職理由などを詳しく確認しておらず、有識者は「わいせつ行為での退職歴などを共有できる仕組みを作るべきだ」としている。(石井正博、江原桂都)

「怪しい点なかった」

 「採用は運営を委託する民間事業者に任せていた。採用時、履歴書だけを確認し、子供が好きで意欲が感じられたことから採用してしまったようだ」

 千葉県の自治体の担当者は、運営を委託する民間事業者が、職員の男に面接で過去の犯罪歴などを確認していなかったことを悔やんだ。

 男は昨年11月、千葉県内の学童保育で小学生の男児のズボンの中に手を入れ、陰部を触るなどのわいせつ行為をした。千葉地裁は2月、「立場を悪用し、卑劣かつ悪質な犯行だ」として、懲役2年、保護観察付き執行猶予5年の判決を言い渡した。

 男は、岡山県の学童保育に勤めていた昨年3月にも同様の事件を起こしていたが、その事実をこの事業者が把握したのは逮捕後だった。事業者は「本人からの申告もなく、提出された履歴書に怪しい点もなかった」などと説明したという。

 事件を受け、この自治体は学童保育の運営を委託する全民間事業者に対し、面接時には犯罪歴など履歴書に書かれていない事項を確認することなどを求めた。

名簿からは「削除」

 自治体間の情報共有も課題だ。

 

 女児が家族に相談したことから、施設側が事案を把握し、自治体にも連絡が入り、今年1月には県にも報告された。最終的な調査報告を待ち、県は5月下旬、男を放課後児童支援員の認定者名簿から削除した。

 県は支援員の資格を証明する「修了証」の返却を男に通知し、男は期限内に返却。男は解雇されたが、県内の別の障害児通所支援施設に採用され、逮捕時まで働いていた。県の担当者は「放課後児童支援員の名簿は、認定者の居住自治体から依頼があれば提供している。ただし、公表はしていない」と話す。

 自治体の担当者は「各施設は慢性的な人手不足で職員の入れ替わりも激しい。自治体では把握しきれない」とする。

自治体の8割「確認せず」…読売調査

 読売新聞は7〜8月、県庁所在市、政令市、中核市、東京23区の計109自治体に全国調査を行い、学童保育、放課後デイの両施設(民間含む)で、職員が過去にわいせつ事案を起こしたことがあるかなどを確認しているのかを尋ねた。

 学童保育では、「確認している」は12自治体、「していない」は89自治体、「その他・未回答」は8自治体。放課後デイでは、「確認している」は6自治体、「していない」は84自治体、「その他・未回答」は19自治体だった。

 実施している自治体では、「面接時に口頭で確認している」(神戸市)や「前職を辞めた理由を詳しく聞く」(北九州市)などのほか、「採用時に幼児性愛の性癖のほか、過去のわいせつ行為等で組織を離れたことがないかなども尋ねる」(愛知県岡崎市)との回答もあった。

 学校の教員の場合、性暴力による教員免許失効者の情報を、教育委員会などが閲覧できるデータベースが整備されることになっている。だが、学童保育、放課後デイの職員は対象になっていない。

 静岡大の石原剛志教授(児童福祉論)は「保育や福祉として子供に関わる施設では、教員よりも身体的接触を伴う機会が多い。専門的な知識や高い倫理観が求められるが、研修の機会や自治体のチェック機能は十分ではない。子供の安全を確保するため、情報を共有できる体制作りや職員研修を見直すなど、国主導で業界全体の問題点の改善に取り組むべきだ」と指摘する。

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