暴言・体罰34件認定の特別支援教諭 内部資料から見えた実態
毎日新聞 2021/12/8(水) 15:12配信
教諭になって8年目、障害のある児童らのクラス担任になってから男性(39)の暴言と体罰が始まった。「お前はクソ以下や」「生きる価値なし」。となった男性はなぜ、横暴な言動を繰り返したのか。取材に「申し訳ないことをしてしまった気持ちでいっぱいです」と謝罪の言葉を述べた。一方で、「全て(暴言・体罰)というわけではない。反省はしているが、背景も理解してほしい」と話した。毎日新聞が入手した内部資料には、クラブ活動や思い通りにいかない児童の指導に不満を募らせる様子が記されていた。
◇児童への横暴な言動、詳細に
兵庫県内の小学校で教員として働き、2011年に教諭として正式採用された男性は5年後、問題の舞台となる姫路市立小学校に赴任した。
横暴な言動は、自閉症や情緒障害のある児童らのクラスの担任となった18年度から始まった。
授業中、1年と3年の男子児童をねじ伏せた。授業に「分かりません」と答えた5年の女子児童には手を強く握り、耳元で「お前にはどんな説明も通じひんな」と言った。
21年度には、朝の身支度をしなかった4年の男児に「生きる価値なし、お前はクソ以下や」と言い放った。
県教委は21年6月までの4年間で計34件の暴言と体罰を認定した。毎日新聞は10月、計4枚の市教委の内部文書を入手。34件について番号がふられ、詳細が記されていた。
�そ桔�に仕事をすると、翌月曜日に「お前らみたいなやつのために週末仕事をした」�А崑糧嚇�たり前にはよ、戻してほしい。はよ、体罰許可されへんかな」�扱彁士呂了愼海如�電卓の使用を提案した支援員に対して「一桁の計算ができひんのに計算機なんか二の次、三の次でしょ」
男性をサポートする支援員の女性職員から市教委が聞き取った内容で、県教委の記者会見では発表されなかった男性の子細な行状が明らかになった。
◇クラブ活動は「特殊任務」
男性は、他の教諭とともに全国大会に出場経験がある「金管バンド」の顧問を務めていた。3〜6年生の約40人が所属し、週4日の始業前と週2日の放課後を中心に練習している。
新型コロナウイルス禍でクラブ活動が制限されていた20年6月、男性は校長に「ちょっとしんどい時があります。気持ちが重くなることがあるんです」と相談していた。体調不良も訴えていた。この2カ月後、内部文書には、男性が再び児童に暴言を吐く様子が記されていた。
㉓「金管さえなかったら、こんなに朝ばたつくことはない。給料も変わらないのにこんなしんどいことやってられん。どうやったら、金管つぶせるか考えろ」㉔「お前らは朝、ゆっくり来とるやろ。こっちは金管指導という特殊任務を朝7時半からやらされとるねん」
真意を聞くため、男性への取材を試みた。男性は「懲戒免職になった立場で、コメントできない」と繰り返した。記者が質問を重ねると、体の前で両手を握り、「子どもたちや保護者に申し訳ないことをしてしまった気持ちでいっぱいです」と声を震わせた。
一方、認定された34件の暴言と体罰については、「全て(暴言・体罰)というわけではない。パニックになっている児童をどうしても押さえ込む必要もあった。反省はしているが、そういう背景も理解してほしい」と話した。
男性は自身の性格を「抱え込んでしまう」と説明。胸に手を当てて「精神的にイライラして、こういう風になってしまった。何とか踏ん張っとったんですが……」とつぶやいた。
◇支援員にぶつけた怒り
男性は支援員にもきつくあたっていた。男性が管理職に呼び出される度に「何か言うたでしょ。ほんまに仕事しにくい。いちいちやめてほしいわ」と苦言を呈した。支援員が「言ってません。信用なしですね」と否定すると、「信用?全くしてません」と突き放した。
始業時に「先生(支援員)は来るのが遅いからお前が冷房入れろ」と児童に指示。「始業時間が一緒やのに、この人(支援員)はのんびりゆっくり来て、自分は金管バンドで遠いところから早よ出て指導に当たらなあかん」とこぼし、「代わってくださいよ。楽でいいですね」と支援員をけなした。
男性は市教委に対し、「(支援員には)愚痴を聞いてもらっている感覚だった」と釈明。毎日新聞の取材には、「(金管バンドの)影響はあったと思うが、それが全て悪いというわけではない。体調の影響でイライラし、子どもたちに強く当たってしまった。自分の甘さ、弱さ、悪いところが全部出たと思う」と説明した。また、支援員や上司らに何度か相談したとし「うまくいかなかった」と述べた。ただ、学校は、男性から管理職が相談を受けたのは1回だけとしている。
支援員は18年度から計7回、校長らに内情を訴えたが、改善されず、事実上、問題は放置された。21年6月、8度目の告発を受けて校長は事態の重大さを認識。3カ月後の9月、県教委は男性を懲戒免職処分とし、理由を「著しく人権意識が欠如し、悪質的な暴言や体罰を常習的にしていた」と発表した。
◇特別支援教育 サポート手薄
文部科学省によると、特別支援学校と特別支援学級に加え、普通学級に在籍して特別支援教育を受けられる教室に通う「通級指導」の児童・生徒は19年度で55万6759人。09年度と比べ、義務教育段階の子どもが1割減少するなか、特別支援教育を受ける児童・生徒は倍増している。
特別支援学校教諭免許の保有率は20年度、特別支援学校の84・9%に対し、特別支援学級は31・2%にとどまる。研修などは自治体任せで、県では特別支援学級を初めて担当する際、年3回の研修で障害の特性に応じた指導を学ばせているとしている。
特別支援学級の運営を支える「特別支援教育支援員」は全国で約6万6000人(21年5月)。非常勤やボランティアなど雇用形態は自治体によって異なり、資格や専門性は必要ない。あくまで学校や教員による指示を受けてサポートする位置づけだ。
特別支援教育に詳しい筑波大学の柘植(つげ)雅義教授は、男性の説明について、「力づくで押さえ込むことは重大な間違い。パニックになった原因を明らかにし、それを踏まえた効果的で人権に配慮した指導・支援を行っていくのが基本だ」と批判する。そのうえで、教育委員会や学校に対して「実践的な研修や教諭の配置方法を見直す必要がある」と指摘する。
柘植教授は「国による特別支援学級の免許創設など、障害のある子どもへの教育の専門性を高めなければいけない。これを機に国、自治体、学校管理職がアクションを起こさないと、同じようなことがまた起こる。教育関係者全員が再発防止を決意しなければいけない」と話す。
市教委は今回の問題について、弁護士、臨床心理士と精神保健福祉士による検証委員会を設けて原因究明を進めている。14日にも報告書がまとまる見込みだ。【後藤奈緒、宮本翔平】