いじめで命絶った17歳に、3年遅れの卒業証書…仏前で「遅くなって申し訳ない」と前校長

いじめで命絶った17歳に、3年遅れの卒業証書…仏前で「遅くなって申し訳ない」と前校長
読売新聞オンライン 2022/4/11(月) 15:47配信

 熊本県立高の3年生だった2018年5月に、いじめを苦に自ら命を絶った深草知華(ともか)さん(当時17歳)にこの春、卒業証書が贈られた。遺族と交流を続けた前校長(58)が「私の手で渡したい」と願い、仏前で“卒業式”を開いた。両親は、3年遅れで届けられた卒業証書を「娘がいた証し」と受け止めた。(岡林嵩介)

 知華さんの死を巡り、県教育委員会の第三者委員会は19年3月、同級生の発言などをいじめと認定し、自殺との因果関係も認めた。だが、そこまでの間、遺族の思いは何度も裏切られた。

 学校が当初にまとめた報告書は、いじめの実態について遺書の記述と食い違い、遺族に調査の姿勢へ疑念を抱かせた。さらに、学校は知華さんの卒業証書を届けようとする一方で、卒業アルバムから知華さんの氏名も写真も除外した。配慮に欠けた対応に、遺族は証書の受け取りを断った。

 前校長は第三者委員会の報告の翌月、高校に赴任した。「遺族に寄り添いたい」と考えたが、県教委から遺族との接触を止められた。20年6月に初めて対面したが、直接に会話することはできなかった。

 それでもあきらめず、福岡市の弁護士を訪ねて橋渡しを頼むと、仏前で手を合わせることを許された。その後も遺族を訪ねては、学校の近況を知らせた。高校では月命日を「心と命の日」として、命の大切さを生徒と教員が考えてきた。思いを伝えるうちに、遺族と前校長の間に少しずつ信頼が生まれた。

 「知華を卒業させてあげたい」。両親は前校長を前に、内心でそう願いながらも言い出せずにいた。前校長もまた、学校の金庫に収められたままの卒業証書が気がかりだった。

 証書の署名は、関係が悪化していた頃の校長のもので、このまま渡すわけにはいかない。今年3月に異動の内示を受け、「卒業証書を届けるには今しかない」と心を決めた。

 前校長は月命日の翌日の3月19日、同様に異動が近い前教頭を連れて家を訪ねると、父・智彦さん(46)と母・志乃さん(48)に、自身の名前に替えた証書を差し出した。「勝手ながら卒業式をさせていただきます。知華さん、遅くなって申し訳ない」。大きな声で名前と文面を読み上げた。前校長と前教頭、両親、そして知華さんの5人だけの卒業式だった。

 今春、知華さんがかわいがっていた6歳下の弟が中学校を卒業した。志乃さんは「知華とふたりで、そろって卒業できた。(前校長は)知華の死を風化させずに取り組んでくれた」と涙ぐんだ。

 前校長は「知華さんが亡くなった日から、遺族の時間は止まっていた。卒業をきっかけに時間が動き出してほしい」と願っている。

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