部活動の体罰、なぜ絶えぬ 勝利至上主義から抜け出せず 「指導者研修、重ねるしか」【いま、学校は】

部活動の体罰、なぜ絶えぬ 勝利至上主義から抜け出せず 「指導者研修、重ねるしか」【いま、学校は】
熊本日日新聞 2023/8/18(金) 11:49配信

 熊本県内の部活動で、指導者による部員への体罰や暴言が絶えない。昨年、私立高で男子サッカー部のコーチによる暴行が問題となったが、その後も学校現場では行き過ぎた指導が相次いで発覚した。社会の厳しい目が向けられているにもかかわらず、なぜ繰り返されるのか。識者は、勝利至上主義の弊害を指摘する。

 「どんくさい」「ばかたれ」「のろまだけん」−。2021年3月。熊本市立中の体育館で練習に励む女子バレーボール部の部員たちに、顧問の女性教諭から激しい言葉が飛んだ。

 保護者によると、女性教諭のこうした発言は日常的で、威圧的な指導に恐怖心を抱く部員もいた。22年8月、市体罰等審議会は教諭の言動を「不適切な行為」と認定。12月には部員を無理やり走らせる行為などがあったとして、県バレーボール協会が教諭を6カ月の資格停止処分とした。

 八木田成人副会長は「チームを強くし、試合に勝つために一生懸命だった。勝利至上主義に陥っていた」と説明。女性教諭は「きついことがあっても乗り越えるのは、社会に出てからも必要。勝つためだけではない」と否定する一方、「言葉の使い方は適切ではなかった」と反省を口にした。研修を重ね、部員への説明を丁寧にするなど自らの指導を見直したという。

 部活動の指導を巡っては12年、大阪市立(現府立)桜宮高バスケットボール部の男子生徒が顧問の体罰を苦に自殺した問題が転機となった。文部科学省は全国の教委に出した通知で指導と体罰の線引きを明確化。指導者への研修も広がったが、根絶には程遠い。

 日本スポーツ協会が設ける暴力やパワハラに関する窓口への相談は増加傾向で、22年度は373件と過去最多に上った。熊本市体罰等審議会でも「生徒の練習着をつかみ、押したり引っ張ったりした」(22年9月)、「生徒の額付近にボールを投げつけた」(同12月)といった行為を体罰と認定するなど、不適切な言動が次々と明るみに出ている。

 熊本市教委は今年7月下旬、部員に体罰や暴言を繰り返したとして、千原台高女子ハンドボール部の監督だった50代の女性教諭を停職3カ月の懲戒処分とした。市教委によると、部員の背後からボールを投げつけたり、人格を否定する言葉で呼んだりした。

 千原台高では19年、当時の男子陸上競技部監督も部員に体罰を繰り返したとして停職3カ月の懲戒処分を受けている。南弘一校長は「効果的な研修ができていなかった。真摯[しんし]に受け止め、改善への努力を続ける」とする一方、再発防止の難しさも口にする。

 サッカー指導の経験がある南校長によると、スポーツ界では1964年の東京五輪を機に試合に勝つための強権的な指導が広がった。今もベテラン指導者にその風潮が残ることに加え、強豪校では部員の進路選択に強い影響力を持ち、周囲が異を唱えにくい構造的な問題があるという。「恐怖で人は育たない。指導者の心に響く研修を重ねるしかない」と南校長。

 熊本大の坂下玲子教授(体育科教育)は「強豪校では特に、結果を求められる指導者が行き過ぎた指導に陥りがち」と指摘。「スポーツは本来、人生を豊かにするためにある。勝利至上主義が、必ずしも子どもの最善の利益ではないことを理解することが大切だ」と話している。(臼杵大介)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする