「子どもを返して」放課後等デイサービスで起きた中学生死亡事故 ウソに隠ぺい…捜査で浮かび上がった施設のずさんな安全管理の実態【キシャ目線2023】
読売テレビ 2023/12/30(土) 7:00配信
障害のある子どもが通う放課後等デイサービスの施設で、送迎中に利用者の男子中学生が死亡した痛ましい事故が起きてから約1年。施設の代表らが安全管理を怠ったとして業務上過失致死の疑いで逮捕され、対応にあたっていた男性運転手も書類送検されました。安全であるはずの施設で何が起きていたのか―。取材から見えてきたのは、施設のずさんな安全管理の実態でした。(報告:櫻茜理・渕上偉織)
■冷たい川で見つかった“我が子”「本当に毎日会いたくて会いたくて…」
事故が起きたのは、障害のある子どもたちが学校が終わった後や休みの日に利用する「放課後等デイサービス」という施設でした。
2022年12月、大阪府吹田市にある「アルプスの森」で、利用者の清水悠生(はるき)さん(当時13)が、送迎中に行方不明になり、1週間後、近くの川で遺体で見つかりました。
重度の自閉症などの影響で突然走り出したり、水に強いこだわりをもっていたりしたという悠生さん。自ら川に飛び込んだとみられています。
悠生さんの母親は「この一年、本当に毎日会いたくて会いたくて。できることなら子どもを返して欲しい、でもそれができない。『助けられなくてごめんね』と、毎日あの子に話しかけている」と苦しい胸の内を明かしていました。
■施設の代表らが逮捕 守られなかった“たった1つの約束”
事態が動いたのは、2023年12月でした。施設の代表の宇津慎史容疑者(60)と、職員で兄の雅美容疑者(65)が、送迎中の安全管理を怠ったとして、業務上過失致死の疑いで逮捕されたのです。
両親と施設側の間では、送迎の際には必ず職員2人で対応することが取り決められていました。しかし、事故の当日、対応していたのは男性運転手1人だけ。両親との間で交わされていた“たった1つの約束”が守られていなかったのです。
警察は男性運転手についても業務上過失致死の疑いで書類送検しています。
■ウソと隠ぺい…起こるべくして起きた事故
警察の捜査で、宇津容疑者らの悪質性が次々と明らかになっていきました。
事故後、宇津容疑者らは両親に、「悠生さんが運転手の手をふりほどいて走り出した」「運転手が業務を重ねることで、『1人で大丈夫』と考えるようになってしまったことが原因」などと説明していました。
しかし、捜査でわかったのは、今回の事故が起きたとき、運転手は腕をつかむどころか助手席から荷物を取ろうと目を離していて、2018年以降、今回の事故以外にも2度、悠生さんが車から飛び出し、水路に入り込んだり、川に飛び込こもうとしたりしたことがあったということでした。
雅美容疑者らは職員に口止めするなどした結果、こうした事実は両親に伝えられていませんでした。
悠生さんの母親は「私たちは何度も施設に2人での対応をお願いして、施設側は『ちゃんとやっている』『大丈夫です』とずっと言い続けていた。施設を信じていた分、本当に裏切られた気持ちで、悲しくて悔しい。(宇津容疑者らには)きちんと真実を明かしてもらいたい」と訴えます。
■増える放課後デイ 一方で“質の低下”の指摘も
2012年の法改正により、民間事業者が参入しやすくなった放課後等デイサービス。共働き世帯などの需要を背景に、事業所の数は9年間で約7倍に急増しています。
一方で指摘されているのは、人手不足による質の低下です。山口県によりますと、2021年8月、山口市の放課後等デイサービスの施設で、当時7歳の男子児童が行方不明になり、その後、ため池で死亡しているのが見つかりました。施設では改修工事が行われていて、男子児童は開口部から抜け出したとみられています。
児童福祉に詳しい専門家は「人材の質と量の確保のため、国による資金面での支援が欠かせない」と指摘しています。
悠生さんの母親は「宇津容疑者らの逮捕は、大きな一歩だと思うが、これは始まりに過ぎない。常習的に子どもが死亡するまで、ずさんな対応をやり続けていたということを社会に向けて私も訴えていきたい」と話しています。