「体罰なし」“身内”による隠蔽…責任の所在曖昧 桜宮高2自殺

「体罰なし」“身内”による隠蔽…責任の所在曖昧 桜宮高2自殺
産経新聞 2013年1月15日(火)14時25分配信

 大阪市立桜宮(さくらのみや)高校のバスケットボール部主将だった男子生徒=当時(17)=が自殺する1年あまり前、顧問の男性教諭(47)の体罰をくい止めるための大きな契機があった。しかし、情報は深く掘り下げられることなく看過され、悲劇へとつながった。

 平成23年10月11日、同校の体育教官室。当時の校長(61)と顧問が2人きりで向き合った。

 「通報があり、体罰を行っていると名指しされている。実態はどうなんだ」

 「体罰はしていません。保護者会を開き、理解を得ながら(部活動を)やっています」

 聞き取り時間はわずか15分。他の教員への聞き取りでも体罰は確認できず、調査は1日で終わり、学校から大阪市教委に「体罰なし」と報告が上がった。

 だが、部OBの証言などによると、実際には10年以上前から部員への体罰が常態化していたという。聞き取りで顧問は嘘の説明をし、当時の校長は生徒へのアンケートなど踏み込んだ調査をすることのないまま、幕を引いてしまった。

 生徒の自殺後、顧問は虚偽説明の理由について、市教委に「しばらくやっておらず、体罰で生徒が良い方向に向かうという実感があったので『ない』と答えた」と釈明した。「生徒からの聞き取りにまで思いが至らなかった」。当時の校長は、自殺が明らかになった今月8日深夜、取材にこう語った。

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 「バスケ部では、体格の良い男性教師が体罰を加えている」。聞き取り調査のきっかけとなった匿名の電話情報が大阪市の公益通報制度の窓口に入ったのは、23年9月7日だった。

 「体罰を見ている子供たちまでもおびえている」「逆らうと退部させられてしまうと泣き寝入り」

 受理された情報は、市の公正職務審査委員会で対応を検討。内容に切迫性、具体性がある場合や“身内”による隠蔽(いんぺい)の恐れがあるときには、専門的な監察部が直接調査に乗り出す。

 しかし、このときの情報については「具体性に欠ける」などと判断され、市教委へ回された。そして、市教委が調査を委ねたのは“身内”である当時の校長だった。

 不十分な調査報告は、市教委を通じて審査委員会に上がり、審査委員会は「違法または不適正な事実は確認できない」と受け入れた。市教委幹部は、調査を学校側に預けたことについて「本件に限らず、現実的な作業を考えて校長に任せている」と説明する。

 顧問の体罰を防ぐ最大の契機を失った背景に、調査結果に対する「責任の所在の曖昧さ」があった。当事者それぞれの「不作為の連鎖」が、後の重大な結果につながってしまった。

 「検察庁のような役割で指示を出す審査委が、なぜ『生徒に聞いて』と言わなかったのか」と橋下徹市長は言う。教育評論家の尾木直樹氏は「調査する意図がない。顧問、校長、市教委の3者ぐるみの隠蔽だ」と厳しく指摘する。

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 「市教委には任せられない。僕が指揮を執る」。橋下市長は今月10日、永井哲郎教育長ら市教委幹部を集めた緊急会議で、出席者をにらみつけ、宣言した。

 調査の主体となるのは、市の外部監察チーム。本来は弁護士5人で構成されるが、市長はチームを100人規模に増員する意向だ。

 橋下市長には、教育行政への政治介入防止を目的とした教育委員会の首長からの独立性について「責任の所在を曖昧にする根源」との思いがある。ただ、調査対象は多岐にわたり、どこまで真相に迫れるかは未知数だ。高校生という多感な年代に十分配慮した調査手法が取れるのかという課題もある。

 捜査のプロである元東京地検公安部長の若狭勝弁護士は、外部監察チームについて「捜査機関と違って強制力がなく、100人規模ではコントロールが難しい。十分な調査はできないのでは」と懸念する。

 橋下市政が直面した教育現場の難題。調査の成否は、市長が力点を置く教育改革の真価を問う試金石でもある。

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