現場から:相模原いじめ事件・被害生徒証言 「最初に対処してくれれば」=宗岡敬介 /神奈川
毎日新聞 2013年3月27日(水)17時8分配信
相模原市中央区の市立中学校で3年の男子生徒(15)がいじめを受け、同級生3人が昨年12月に傷害容疑などで逮捕された事件で、被害生徒が実態を語ってくれた。学校に被害を再三訴えたが、学校は十分な対応を取らずに事態を深刻化させていた。一方、いじめアンケートは被害者や目撃者が申告しにくい形式で、学校から市教委への報告基準も不明確など、いじめを早期に把握して対応する態勢も不十分だったことが浮き彫りになった。
◇暴行の反復「ケンカ」扱い
被害生徒によると、いじめは1年の時から始まった。記憶に残るのは10年10月ごろ、サッカー部の部活動中に起きた出来事だ。
同級生の部員1人とトラブルになり、突き飛ばされたところを複数の部員から顔などを蹴られ、前歯が欠け、頭を打った。担任や部活動の顧問は「トラブル」と判断したが、被害生徒の母(43)は「複数に蹴られており、トラブルというのはおかしい」と訴えた。
しかし、顧問が見ていない時間帯に起きたということで「今後は必ず教諭が部活動を見る」と約束されただけだった。被害生徒はこれ以降、部活動に参加しづらくなり、11年4月に退部届を出した。
2年になると、深刻さは増した。特定の複数の同級生に、すれ違っただけで理由もなく殴る蹴るされ、上履きや外靴が少なくとも5、6足無くなった。
被害生徒は1年時から担任にいじめを訴え続けていた。教諭たちは学年会で話し合うことはあったが、他にも同じような被害を受けている生徒がおり、被害生徒がやり返しているなどとして、「ケンカ」「トラブル」と処理した。被害生徒は「先生に言っても無駄」と諦め、11年9月以降は被害申告をやめた。
3年になっても、いじめは治まらなかった。中間テストの昨年10月11日、休み時間にトイレに行った被害生徒は同級生の男子2人から殴られ、最後は助走をつけての飛び蹴りをされた。それでも被害生徒は被害を訴えず、痛みを我慢してテストを受け続けた。
6日後、被害生徒は図書室前廊下で同級生に顔を膝蹴りされ頭を壁に打ち付けられた。これを機に被害生徒と母は相模原署に被害届を出す。12月、同級生3人が逮捕された。
母親は「1年の部活動の事件時にしっかり対処していれば、こんな重大なことにならなかったのでは」と学校側の対応に疑問を持つ。男子生徒も3年間を振り返り「同じような目に遭う子を出さないで」と強調した。
◇「重要事案」基準が不明確
被害生徒は1年時からいじめを受けていたのに、学校側が初めて市教委に報告したのは3年時の昨年10月22日。同17日に男子生徒が暴行され鼻の骨を折るけがをした事件を受けてのことだった。
その前の昨年9月7日、10月11日の暴行も同級生が逮捕されるほど激しかった。実際、9月の事件では学校側が被害生徒と母に対し、警察に被害届を出すよう促している。
しかし、この2件が市教委に報告されたのは、10月17日の事件で相模原署が同級生を逮捕した後の12月。校長は報告の遅れについて「当初は重要な事案と認められなかった」と釈明したという。
「相模原市立小学校及び中学校の管理運営に関する規則」では、職員や児童・生徒に重要と認められる事故が発生した場合、校長は直ちに教育委員会に連絡し、文書で詳細を報告することが義務づけられている。
ただ、どの程度で「重要」とするかは各学校に委ねていた。今回の事件で相模原市教委がまとめた調査報告書は、報告基準があいまいなことを問題点として指摘した。
同市教委は、ちょっとした事故でも積極的に報告するよう各学校に要請した。さらに、学校の深刻な事態に気づけなかった反省を踏まえ、市教委から定期的に学校を訪問し、異常がないか見回る仕組みに改善した。
事件後、被害生徒が通っていた学校は、いじめ被害を繰り返さないよう取り組みを始めた。1月、全生徒にそれぞれの担任が1人10分程度の面談を行い、いじめや勉強、家庭の悩みを聞いた。面談は今後も定期的に実施する。市教委への事故報告も「認知したものは早めに一報を入れたい」(校長)という。
同校では12年度、火災報知機の発報が23件、器物破損が16件と学校全体が荒れている状況にあった。同校は警察による非行防止教室や、保護者による昼休みの校内パトロールを実施していく。
校長は「地道にやるしかない。地域や教育委員会、ボランティアの力も借り学校を変えていきたい」と話す。
◇教室でアンケ「丸見え」危惧
今回の事件では、学校側がいじめを把握するため生徒に実施するアンケートの方法についても、問題点が浮き彫りとなった。
被害生徒は学校が毎年行っていたいじめアンケートに、1度も被害を訴えることができなかった。同校の当時のアンケートは記名式の上、生徒に教室で書かせていたからだ。
被害生徒は「書いていると周りから丸分かりだった。名前を書いて出すこともためらった」と話した。アンケートを書くことで、新たないじめを誘発することを恐れた。
県教委は毎年、全小中高校にいじめアンケートを実施するよう求めているが、時期や形式は学校任せ。その理由を県教委子ども教育支援課の宮村進一指導主事は「学校がそれぞれ狙いを定めて実施する方が、いじめをより認知できる」と話す。
一方、文部科学省国立教育政策研究所は昨年6月、「いじめアンケートは無記名で回答しやすくすることが重要」との報告をまとめた。これを受け横浜市教委は昨年12月、市立小中高校などの全児童・生徒約27万人に、学校を通じて全市共通の無記名・選択式のアンケートを実施した。
横浜市教委は「より正確に実態を把握するため、子どもの視点に立って書きやすくした」と説明する。この結果を踏まえ、把握したいじめを全教職員に回答してもらったところ、小中学校での認知件数は前年の約1・8倍に増加した。
熊本県教委は06年度から、県内共通で公立の小中高校に無記名式のいじめアンケートを行っている。選択式が大部分で、アンケート後は各校の教諭に全児童・生徒との個別面談を義務づけている。
文科省の問題行動調査によると、11年度の熊本県のいじめ認知件数は6832件で、児童・生徒1000人当たりでは32・9件と全国最多だったのに対し神奈川県は4454件で1000人当たり4・8件。熊本県教委の共通アンケートはいじめ把握に功を奏していることがうかがえるが、同県内で起きた中学生の自殺を受け、更に改善を進めている。
今回の事件を受けた対応策として、相模原市教委は児童・生徒が周囲に気兼ねせず記入できるアンケート方法を検討している。被害生徒は「家に持ち帰ってのアンケートなら、被害を書けたかもしれない」と語る。通っていた学校は2月、自宅に持ち帰って記載する方式に変更してアンケートを実施した。
各学校は、いじめの実態について正確に把握する工夫を一層進めるべきだと思う。「いじめは存在するもの」という前提に立ち、広く子どもたちの声を吸い上げ、早期に解決策を取って事態を改善していく努力が必要だ。そうしなければ、悲劇は無くせない。
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◇いじめ事件の経過
<12年>
9月 7日 被害生徒が校舎の廊下で腹を回し蹴りされる
10月11日 校舎トイレで2人に腹などを殴られ跳び蹴りされる
17日 校舎の廊下で顔を膝蹴りされ鼻の骨を折る
20日 被害生徒と母が相模原署に相談
22日 学校が17日の暴行を市教委に報告
12月 6日 相模原署が10月17日の暴行で同級生を傷害容疑で逮捕
. 18日 10月11日の暴行で、6日逮捕の少年と共謀した暴行容疑で別の同級生を逮捕
19日 9月7日の暴行で3人目の同級生を暴行容疑で逮捕
市教委が記者会見
<13年>
1月 9日 横浜家裁相模原支部が逮捕された同級生3人のうち2人を保護観察処分に
16日 残る1人も保護観察処分に
2月14日 市教委が調査報告書と対応策を発表
3月27日朝刊