時代錯誤の「公費天国」…税金で「上海旅行」鹿児島知事に県民怒り
産経新聞 2013年7月12日(金)9時45分配信
鹿児島空港の上海便存続を名目に“公費上海旅行”をぶち上げた伊藤知事(右)。県民からは「ラ・サールの恥」とのヤジも(写真:産経新聞)
鹿児島県の伊藤祐一郎知事が打ち出し、10日から実施される県職員らの公費丸抱え“上海研修旅行”が波紋を広げている。知事は、利用が低迷する中国東方航空の鹿児島−上海便を存続させるための事業であると“正当性”を強調。当初は職員千人を派遣し、事業費1億1800万円を計上する計画だったが、さすがに県議会などの反発にあい、派遣人数を300人に、費用も3400万円に減らした。それでも税金で海外旅行をプレゼントすることに変わりなく、時代に逆行する県の公費天国ぶりに県民は怒り、あきれている。(熊本支局 谷田智恒)
◆お1人様、3泊4日11万8千円の豪華旅行
「鹿児島県庁は研修名目で上海便を使い、中国に職員千人を派遣する。全額県費で千人単位で出そうと思っています」
伊藤知事がこんな構想を打ち出したのは5月14日、鹿児島空港国際化促進協議会総会でのことだった。すぐさま計画は具体化し、県は29日、「上海派遣短期特別事業」として、6月補正予算案に必要経費1億1800万円を計上した。
このときの計画では、一般行政職と教職員各500人の計千人を、20回に分けて50人ずつ3泊4日の日程で上海へ派遣。必要経費は、現地での宿泊ホテル代1万2千円(4千円×3泊)、航空運賃4万円、さらにチャーターバスや通訳の料金などを加え一人当たり11万8千円とした。
これらをすべて公費で負担。研修中は「公務出張」扱いとなるため、派遣期間中の給料も支払われるほか、1万5200円の日当もつく厚遇ぶりだ。
上海3日間の旅で3万〜7万円が相場とされる民間ツアーと比べれば、あまりにも割高。県は「成長著しい上海の産業や都市基盤、教育などの状況を直接体験するプログラムを通じて職員の国際感覚や幅広い視野の醸成を図る」と説明するが、説得力に乏しく、県議会が6月初めに開会すると、県職労や与党の自民党県議団も批判に回った。
そこで知事は「300人は県民に参画を求める」といったん“妥協案”を提示したが、最終的には県職員千人分1億1800万円の補正予算案を撤回。上海便存続の緊急対策として7〜9月の3カ月間に県職員、教職員、県民各100人計300人を3泊4日で上海に派遣する内容に修正した。事業費も3400万円に減額され、財政調整積立基金から繰り入れることに決まった。
◆税金投入の“正当性”訴える知事
知事が今回の計画を打ち出した理由に挙げる上海便をめぐる事情はこうだ。
鹿児島空港(同県霧島市)には平成14年から中国東方航空と日本航空の共同運航便が週4往復運航してきた。しかし昨夏の中国での反日暴動後、利用客が激減。23年の利用客は1万9761人(搭乗率55・4%)だったが、24年は1万6989人(同47・5%)と搭乗率が5割を下回り、過去最低となった。
中国東方航空などは今年3月から週2往復に減便しており、このままでは定期便消滅の可能性も出てきた。そこで伊藤知事が思いついたのが、研修名目で職員を大量に利用させることだった。
さらに県議会の論戦を通じ“もう一つの思惑”も判明した。知事は6月14日の県議会・一般質問で一部自己負担を求めた県議の質問に、「国の要請に基づき、職員1人あたり19万円ほど給与削減をする。その一部を研修という形で還元するのは必然的な流れ。税金丸抱えというケースにあたらない」と述べた。
つまり、政府の求めに応じて削減する県の特別職や管理職の給与や手当て1億3千万円を財源として充当する方針だったのだ。事実上の給与補填(ほてん)に当たり、研修名目での税金投入がますます説得力を欠く結果になった。
◆腰砕けの議会、押し切られた民意
伊藤知事は名門ラ・サール高校、東大法学部卒で、総務省の元キャリア官僚。生活の党の小沢一郎代表が自治相だった当時、秘書官を務め、小沢氏と太いパイプを持つことで知られる。昨年7月の知事選は盤石体制で3選。3期目に死角はないように思われていたが、「イエスマンに囲まれ、世間の空気が読めなくなったのか、見苦しい迷走を続けた」(地元政界通)。
「上海研修」事業の補正予算修正案を審議する6月28日の県議会は大荒れとなった。本会議や委員会が断続的に行われ、午後11時過ぎに1日会期を延長。傍聴席の県民からは知事に「エエ加減にせえ!ラ・サールの恥!」、知事に遠慮がちな県議らに対しては「腰巾着!」などとヤジが飛んだ。
本会議は未明に再開され、賛成、反対の討論の後、起立採決を前に自民の1人が議場を退席。修正案は公明3人、共産1人、無所属議員4人のほか、自民の2人も反対したが、自民や県民連合(民主・社民系)の賛成多数で可決された。県民の批判が大きかったにもかかわらず結局、議会は腰砕け、知事の「剛腕」が民意を押し切った形になった。
止まぬ県民の反発
補正予算成立を受けて記者会見した伊藤知事は県民の反対について、「日本が国際化しているとの認識がない。鹿児島に住んでいれば十分という主張が強かった」と息巻いた。
一方、住民団体「鹿児島オンブズマン」の続博治代表は「修正案もムダな支出に変わりはない。こんな事
業は伊藤氏が自分で金を出してやればよいことだ。県議会がチェック機能を果たさないので市民の立場で追及していく」と強調。7月1日に住民監査請求を行ったのに続き、伊藤知事を相手取り公金返還を求める訴訟を起こすことも検討している。
6月5日から4万5千人の反対署名を集めた鹿児島市の開業医、堂園晴彦氏(61)も「これで鹿児島は世間の笑いもの。時機を見て、伊藤知事のリコール運動も検討したい」と怒りをあらわにする。
その伊藤知事は7月10日に上海へ旅立つ“県職員ご一行”に同行、中国東方航空本社も訪れるというが、今回の強引なやり方に県民の反発は強く、県政に少なからぬ影響を与えそうだ。
職員や議員の公費抱え研修旅行など「公費天国」は各地の自治体で問題になっている。関西でもこれまで同様の問題が各地で表面化。中でも大きな批判を浴びたのは、平成元年に公金詐取事件で職員が逮捕されたことがきっかけで明らかになった大阪市の公費乱脈だった。
市幹部の公金での飲食や市議の飲食代のつけ回し、公金による高級接待などが次々と発覚、底なしの不正といわれた。市は綱紀粛正に力を入れてきたが、その後も公費による職員の厚遇問題が度々表面化している。
どこの自治体にも通じる問題とはいえ、市民や世論の監視が厳しくなった今、鹿児島県の公費旅行は無駄遣いの最たるものとの批判を免れないだろう。