「来たのが受け子でなく包丁を持った強盗だったら…」。特殊詐欺の被害に遭いかけた静岡市の高齢夫婦が29日までに、静岡新聞社の取材に応じた。自宅前に現金を取りに来た受け子が逮捕されたものの、個人情報を伝えてしまったことで、今も不安な日々を過ごす心境を明かした。首都圏で民家を狙った強盗事件が相次ぐ中、県警は知らない番号に出ない固定電話の水際対策を推し進めるとともに、個人情報や資産状況を尋ねる「アポ電」への警戒を一層強めている。 「会社で誤って送金してしまった」。静岡市葵区に住む80代夫婦に息子を名乗る男から1本の電話がかかってきたのは、昨年10月の昼過ぎ。「詐欺なんて思いもしなかった」。妻が手に取ったのは固定電話の子機。番号ボタンと保留ボタン程度の機能だけで、電話先を識別する設定や対策もしていなかった。もともと小さな事業を営んでいて「出ないなんてできなかった」という。 「上司はもうお金を用意できている」「午後3時までに用意しないといけない」などと数分おきにかかってくる電話に詐欺の可能性も頭をよぎったが「息子を助けてあげたかった」と夫。住所や携帯の電話番号など個人情報を伝えてしまったという。 結局夫婦宅を訪れた受け子の男は現金受け渡し直後、行動を不審に思って追跡していた県警の捜査員に逮捕された。しかし、その後も無言電話が続くなど、夫婦は不安な日々を過ごしている。事件後に固定電話に対策を施したが、「逮捕された受け子の男の、にらむような視線が忘れられない。犯人グループに住所なども知られてしまった。今回は詐欺で、しかもお金を取り戻すことができたのでまだ良かったが、次は包丁を持った強盗が家に来るかもしれない」と妻は不安そうに電話を見つめた。 ■固定電話対策を 静岡県警推進 特殊詐欺対策を管轄する県警生活安全企画課は、特殊詐欺もアポ電強盗も同じように1本の電話から始まるとし、担当者は「固定電話対策は出ないようにするのが一番」と力を込め、対策を進めている。 「固定電話を外すのが一番効果的」と担当者は伝えるが、一方で夫婦のように昔からのつながりで固定電話を外さない選択をする家庭も多い。そこで県警は固定電話対策として2023年から、NTTなどと連携し着信先の電話番号を表示するナンバーディスプレーや、警察や消費者センターが把握した犯人グループの電話番号を識別する悪質電話防止装置などの設置の支援や呼びかけを行い、「怪しい電話に出ないで済む」対策を推し進めている。 同課によると、昨年11月末までに固定電話対策を働きかけたのは県内約4万7千世帯で、実際に何らかの対策を導入したのは約2万7千世帯。懸命の対応が続くが、高齢者を中心にいまだ対策を導入していない家庭も多い。 担当者は「今後も粘り強く呼びかけを続けていきたい。不審な電話に出たり、不審な来訪があったりした場合はすぐに警察に相談してほしい」と呼びかけている。