韓国では、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が非常戒厳(戒厳令)を宣布して内乱を首謀した疑いで逮捕され、弾劾審判を受けている。この政治的混乱のなか、尹の保守与党「国民の力」が助けの手を差し伸べてくれると期待するのがドナルド・トランプ米大統領だ。【ミシェル・キム(米弁護士、在ソウル)】 1月19日、尹を支持する極右勢力が大統領への逮捕状発布に抗議して、ソウル西部地裁に乱入した。トランプ支持者による2021年1月の米連邦議会議事堂襲撃を想起させる事件だった。 その後、国民の力の議員は、尹が非常戒厳の宣布という権威主義的な手段に打って出た背景には、中国の干渉に対抗し、対米同盟を強化する狙いがあったと主張している。 ワシントンで行われたトランプの大統領就任式には、国民の力と最大野党「共に民主党」の議員も出席。自国の混乱をよそに、外交的な根回しにいそしんだ。返り咲きを果たしたトランプに尹の側近が期待しているのは、韓国国内の危機への介入だ。 国民の力の羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)議員はワシントンに出発する前日、「(アメリカ側に)前代未聞の事態について正確に説明し、野党が尹大統領と大統領代行を弾劾するために反乱を扇動したことを詳しく伝える」とフェイスブックに投稿。 「野党が尹大統領の弾劾を試み、いかに自由民主主義的な外交を損ね、全体主義的で反自由主義的な世界観への支持を表明したかを、明確に説明するつもりだ」と彼女は書いた。 尹の弾劾を求める議案採決で羅は、与党議員の大半と同じく反対票を投じた。2月に入ってからは寒さのなか、大統領公邸前で尹の逮捕に抗議するデモにも参加した。 羅に合流したのは尹を支持する極右勢力だ。反共主義を唱える福音派キリスト教のナショナリストで、中高年層が多い。 「MAGA(アメリカを再び偉大に)」というトランプのスローガンのロゴ入り帽子を模した赤い野球帽をかぶった人や、陰謀論を信じるトランプ支持者のスローガンを借りて「STOP THE STEAL(選挙を盗むのをやめろ)」というプラカードを掲げる人もいた。 戒厳部隊と与党、そして車両によるバリケードや鉄条網などで塞がれて「要塞化」した大統領公邸が盾として機能しなくなると、支持者はオルタナ右翼の陰謀論フォーラムで唱えられてきた希望にすがった。 トランプが自分たちに手を差し伸べてくれるというシナリオである。彼らは野党が圧勝した昨年4月の総選挙で不正があったと主張し、トランプが調査してくれると信じている。 【根強く残る嫌中感情を利用】 選挙で不正が行われていたというのは、オルタナ右翼のユーチューバーが広めた根拠のない陰謀論だが、尹自身もこれを支持している。尹の支持者は、いずれトランプが憲法裁判所による弾劾審判の結果も覆してくれるとも考えている。 もちろん、アメリカの大統領に韓国の民主主義的な決定を覆す権限はない。だが尹は「自己クーデター」の失敗を挽回しようと、新たな政治的策略に打って出た。