揺らぐ刑事司法への信頼を取り戻す第一歩だろう。 検察トップの畝本直美検事総長が、取り調べの録音・録画(可視化)の対象を広げる方針を示した。現行の、特捜部など検察が独自に手がける事件と裁判員裁判の対象事件で逮捕や拘留した場合に限っている対象を、被疑者を逮捕しない在宅事件の一部にも拡大するという。 検察による取り調べの録音・録画は、裁判員裁判の導入や大阪地検特捜部による証拠改ざん事件を契機に導入され、2019年の改正刑事訴訟法の施行で義務化された。 現在、逮捕事件のほとんどで録音・録画が実施されているが、検事による威圧的な言動や供述誘導が相次いで発覚している。 19年の参院選広島選挙区の買収事件では、元広島市議が東京地検特捜部検事に供述を誘導されたと主張し、最高検も不適正な取り調べだったとする調査結果を示している。 大阪地検特捜部が業務上横領の疑いで不動産会社社長を逮捕、その後無罪が確定した事件では、関係者への取り調べで「検察なめんなよ」などと怒鳴る様子が録画されていた。 畝本氏は「憂慮すべき」と述べ、対象拡大の試行に言及した。 ただ、可視化だけで不当、不正な取り調べを防げるとは限らないことも押さえておきたい。 参院選買収事件では、特捜部の検事の間で捜査対象者に容疑を認めさせる事実上の競争をさせていた実態が、日弁連の調査で明らかになった。 「人質司法」と批判される強力な権限を背景にした強引な取り調べは人権侵害のみならず、事実を歪めてえん罪を生んできた。その抑止と自制が欠かせない。検察の意識改革が必要だ。 日弁連などは全ての事件と任意も含めた全過程の録音・録画の義務づけを求めている。可視化の拡大は検察だけでなく、警察でも実施すべきだろう。 滋賀県の湖東記念病院事件(03年)の再審無罪判決(20年3月)は、捜査官が自白を誘導したと認定した。 日野町事件(1984年)の再審請求審でも、大阪高裁は県警による自白の強要や誘導があったと認め、再審開始を決定した。 現場には「捜査の支障になる」などの声があるが、裁判段階で供述の任意性や信用性が争いになった場合、客観的な記録は捜査側にもプラスになるはずだ。