事件の真相やその描写は、非常に陰惨かつ衝撃的でよかった。 だが、正直、ディテールはツッコミどころだらけ。雑なストーリーに引っかかることが多く、いまいち没入も感動もしきれないまま終幕してしまった。 広瀬すず主演のヒューマンクライムサスペンス『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS系)。3月28日(金)に最終話(第10話)が放送され、すべての真相が明らかになった。 元警察官の父・山下春生(リリー・フランキー)を殺されてしまった大学生・山下心麦(広瀬)。被疑者はすぐに捕まり、春生が22年前に逮捕した林川一家殺害事件の犯人の息子だと判明。逆恨みによる犯行だとされていたが、春生が遺した手紙にはその人物は冤罪だと記されていた。 複雑に交錯していく過去と現在の2つの事件、その真相に迫るサスペンスである。 本稿はネタバレありで書かせていただくが、読者のみなさんが最終話まで視聴していることを前提に、細かい説明は省略させていただく。 ■【ネタバレあり】最終話、すべての事件の真相が明らかに 最大のネタバレになるが、父・春生を殺害した真犯人は、彼の警察時代の後輩刑事の妻・赤沢京子(西田尚美)。 そして、京子は心麦の実母でもあった。不倫関係にあった京子と林川安成の間にできた子どもが林川歌=心麦であり、京子は22年前の林川一家死亡の現場にもいたことが明らかに。 さて、筆者が一番引っかかったツッコミどころは、「なぜ京子は赤ん坊だった心麦を事件現場に置き去りにして自分だけ逃げたのか?」ということ。 京子が安定した暮らしを求めてお金に執着するようになったのは、幼少期に当時5歳だった弟が餓死したことがトラウマになっているからだと語られた。 だが、心麦だけを事件現場に置き去りにするという選択は、それこそ赤ん坊が餓死しかねない行為。しかも京子は、自分だけのうのうと旦那(赤沢刑事)のいる家庭に戻っているのだ。弟の死をきっかけに子どもの命に人一倍繊細になった人間がする行動として、矛盾しているように感じられた。 また、紆余曲折を経て、歌=心麦は山下夫婦が自分たちの子として育てることになるのだが、なぜそのタイミングで京子は「わが家で引き取る」と言い出さなかったのかもかなり疑問。 京子が、林川一家殺害事件の真相や、自分と心麦の血のつながりを知られることを怖れていたのはわかる。 しかし、山下夫婦が引き取るというタイミングで強引にでも割って入れば、秘密をすべて隠蔽したまま、歌=心麦をわが子として迎え入れられたはず。要するに血のつながった娘を、赤の他人のフリをして引き取る大チャンスが到来したのに、その選択をしなかったのである。 弟が餓死して子を想う気持ちが強いという設定があるにもかかわらず、歌=心麦に対して薄情すぎて、相当な違和感を覚えた。 ■真犯人だけじゃない! 主要キャラにツッコミどころ満載 父・春生の行動にもツッコみたい部分がある。 春生が林川一家殺害現場に最初に到着した刑事で、1階に1人だけ生存していた赤ん坊の歌=心麦を発見し、2階のベビーベッドに寝かせていた。一方、逮捕された被疑者は1階に赤ん坊がいたと供述していたため、虚偽証言とみなされてさらに容疑が深まり、けっきょく冤罪で死刑判決に。 春生は真犯人をかばっていたわけでも、被疑者に恨みがあってハメようとしたわけでもないのに、自分が赤子を2階に移したことを周囲の誰にも伝えず隠していたことになる。ただ単に言わなかっただけなのだ。 春生は正義の刑事といった描かれ方をしていたので、それが本当に不可解で意味不明すぎた。 また、当時の警察が林川一家殺害事件の真相にたどりつけなかったことも、少々腑に落ちない。 かなりショッキングな事件のため、警察も威信をかけた捜査をしていたはずなのに、なぜ赤沢京子が捜査線上にあがってこなかったのか。林川安成と職場不倫して子どもまで産んでいるのだから、いくら2人が秘密にしていたとしても、周囲の証言や目撃情報で京子が疑われそうなものである。 ほかにも、結果的に京子の共犯者となり、現在の事件で3人も殺害していた老弁護士の動機も、あまりに短絡的すぎて呆れてしまった。 検事として出世コースに乗っている隠し子のキャリアを傷つけないよう、犯行に至ったのだが、動機と犯行の “重さ” が釣り合っていないのだ。隠し子だった娘の出世のために邪魔だったというのは理解できたが、そんな軽い動機でぽんぽんと罪のない人たちを殺せるのか。 このようにツッコミどころが多すぎるのだが、ミステリー要素もある作品で雑な設定やストーリーはいかがなものか……。 ■細部までていねいに作り込んでもらいたかった 『クジャクのダンス、誰が見た?』は今期一の考察ドラマと言っても過言ではない。熱心な視聴者ほど毎回毎回、放送後に真犯人は誰かや事件の真相を推理して楽しんでいたことだろう。 だが、真犯人を含めた登場人物たちが、キャラクター設定から大きく外れた理解不能な行動や矛盾した決断をしていると、視聴者がいくら必死に推理したとて的中できるはずがない。 この手の考察熱を煽るドラマを作るのであれば、雑な仕事はせず、ディテールまでていねいに作り込んでもらいたかったというのが正直なところだ。 ●堺屋大地 恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。『文春オンライン』(文藝春秋)、『現代ビジネス』(講談社)、『集英社オンライン』(集英社)、『週刊女性PRIME』(主婦と生活社)、『コクハク』(日刊現代)、『日刊SPA!』『女子SPA!』(扶桑社)などにコラム寄稿