アングル:ウクライナからロシアへの子ども連れ去り、トランプ政権が責任追及阻む

Max Hunder [ヘルソン(ウクライナ ) 27日 ロイター] – ウクライナからロシアに連れ去られた子どもらに関する米イェール大学の調査プロジェクトに対し、トランプ米大統領が資金拠出を停止したことを知ったボロディミール・サハイダクさんは、誘拐犯が果たして公正な裁きを受ける日は来るのだろうかと疑問に思った。 ロシアがウクライナ侵攻を開始した2022年2月、サハイダクさんはウクライナ南部ヘルソンで児童養護施設を運営し、50人余りの子どもを預かっていた。 侵攻直後、子どもらがロシア側に連れ去られないよう、すぐに親族や職員の元へ「分散疎開」させたが、市内の学校に登校していた数人がロシアの占領地に送られてしまった。 「何十人もが取り組んできた全ての作業を、たった1人(トランプ氏)が台無しにできることが腹立たしい。(子ども連れ去りは)刑事的な責任を問う必要があるが、米国は私たちに異なる景色を見せようとしている」。サハイダクさんは今週、ヘルソンでロイターに語った。 ロシアの犠牲になった民間人や声を届けられない子どもらのために正義を追求するプログラムに、米国からの重要な支援が止まったことについては、サハイダクさんを含め多くのウクライナ人が怒りを感じている。 バイデン前政権は、ウクライナにおけるロシア当局の国際法違反や人道に対する罪を巡る疑惑の実態を具体的に文書化する事業に乗り出していた。その主導的役割を担っていたのが、イェール大学の人道調査研究所だった。 ウクライナは、この戦争中に家族や保護者の承諾なく1万9500人余りの子どもがロシア本国ないしロシア占領地に連行されたと主張。そうした誘拐は、国連の「ジェノサイド(集団殺害)条約」で禁止された戦争犯罪だと訴えている。 国際刑事裁判所(ICC)は2023年、ロシアのプーチン大統領とマリヤ・リボワベロワ大統領全権代表(子どもの権利担当)に対して、子どもの強制連行を理由に逮捕状を出した。 ロシア側は、弱い立場にある子どもらを戦争地域から安全な場所に避難させただけだと反論している。 サハイダクさんの話では、22年6月のある日、身元不明のロシア人4人が養護施設に現れ、子どもらの関連書類を押収した。防犯カメラの映像には、民間人の服装でフェイスマスクをした2人と軍服に目出し帽の2人が施設内を探す様子が映っていた。 ロイターが以前に調べたところでは、ヘルソン市内の学校にいた6人の子どもが、14年にロシアが併合したクリミアに連れて行かれたことが判明している。 <喜びが落胆へ> サハイダクさんは、ICCがプーチン氏とリボワベロワ氏に逮捕状を出した際には大喜びした。だがこの件を担当したICCの検察官に対して、トランプ政権がイスラエルのネタニヤフ首相の逮捕状を発行したことを問題視して制裁を科すと、歓喜は落胆に変わった。 「間違っている。これで(プーチン氏が)罰を受けずに終わってしまうのではないかと心配だ」と打ち明けた。 サウジアラビアで開催された米国とロシアの実務者協議後、米政府は強制連行された子どもらをウクライナに帰す方法を模索すると表明した。ただ、具体的な計画は示されていない。 サハイダクさんは「トランプ氏とプーチン氏の友情が、ロシアの違法行為に関する決定に影響を与えてはならない」と強調した。 ヘルソンの主要小児科病院の医師、インナ・ホロドニャクさんにとっても、イェール大学のプログラムへの資金拠出が打ち切られたことは受け入れがたい事実だった。 「このような重要プロジェクトへの資金を止めれば、いかなる犯罪に手を染めても犯人には何も罰が下されないと誰もが認識するようになり、世界中に悪影響が広がるだろう」と懸念する。 彼女の病院には、サハイダクさんが運営していたのと別の施設から多くは就学前の年齢の子どもが送られてきた。ロシアに連れ去られるのを防ごうとして医師らは、子どもの病状を誇張した書類を作成し、連行されたのは2人だけだった。 ホロドニャクさんは「ロシア人には嫌悪と軽蔑を感じる」と述べた。 誘拐された子どもらが正義を手にすると信じるか、と聞かれたサハイダクさんとホロドニャクさんは、トランプ氏の介入でその可能性が薄れたと口をそろえる。 それでもホロドニャクさんは「善と正義、常識の勝利をなお信じている」と語ったが、サハイダクさんは「ウクライナが強い国にならない限り、正義は実現しないと思う」と不安をのぞかせた。

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