追跡・発掘:酒気帯び運転教諭、免職撤回 裁決書入手 原則の方針、再検討も /山梨
2010年4月7日12時13分配信 毎日新聞
◇教育委員からも処分に異論
酒気帯び運転で懲戒免職となった県立かえで支援学校の男性教諭(45)が、県人事委員会の裁決で処分を軽減され、復職した。毎日新聞はこの裁決書(非公開)を入手。人事委が県教委の処分を重すぎると判断した経緯の詳細が判明した。また、処分を決めた際も委員から同様の異論が出ていたことも、関係者の証言で明らかになった。飲酒運転は原則免職とする県教委の方針が再検討される可能性も出ている。【中西啓介】
裁決書によると、教諭の酒気帯びが軽度のものだったことが、改めて分かる。
裁決が認定した「争いのない事実」などによると、教諭は昨年8月5日午前7時50分ごろ、甲州市塩山上於曽の自宅近くの市道で乗用車を酒気帯び運転し、自転車の中学生と接触する事故を起こした。教諭は前日午後11時半まで同僚と居酒屋とスナックでビールや焼酎などを飲んだが、同僚の携帯電話を持ってきてしまったことに気づき、翌朝同僚宅に届けようと車を運転した。
教諭は酒気帯び運転容疑で現行犯逮捕されたが、日下部署の検分によると会話に問題はなく、歩行は正常にできた。酒のにおいは顔から約50センチの位置で「弱い」程度、目は充血していた。
県教委は1週間後の同12日付で教諭を懲戒免職としたが、甲府区検はその後、起訴猶予とした。
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教諭は昨年10月、人事委に不服申し立てを行った。裁決書によれば、教諭側は▽意図的な飲酒運転ではない▽無免許運転なら停職や戒告で済むことがあり得るとすれば、処分の重さにバランスを欠く▽中学生も一時停止を怠っており、飲酒がなくても事故は起きた可能性が高い−−などと訴えた。また、処分軽減を求める約1万7000人分の署名も人事委に提出された。
しかし、県教委側は「生徒、保護者、県民の信頼を著しく失墜させた」「たとえアルコール濃度が低い場合でも懲戒免職は免れない」と、06年に定めた「飲酒運転は免職」とする指針を譲らず、署名についても「署名がそのまま県民の常識に合致するとは言えない」と主張した。
しかし、裁決は「処分は妥当性を欠き、重きに失すると言わざるを得ない」と結論。処分を停職6カ月に修正した。
裁決書によると人事委は「事故に酒気帯びの影響があったと認めることは困難であり、酒気帯びの自覚があったとは断定できない」と判断。さらに、処分軽減の署名が出されている▽21年間処分を受けることなくまじめに勤務した−−などを考慮した。
さらに裁決は、飲酒運転は原則懲戒免職とする指針自体にも疑問を投げかけ「懲戒免職以外では看過できないほど重要な場合に初めて行われるべき処分であって、酒気帯び運転の一事をもって判断することは適当でない」と述べている。
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一方、この処分には県教委内でも異論があった。
関係者によると、教諭の免職を決めた昨年8月12日の委員会では、事務局から(1)寛大な処分を求める嘆願書が出されている(2)被害者の中学生の保護者から「子供の側に事故の責任がある」とする上申書が提出されている−−ことが報告された。
これを受け、ある民間出身の委員は「情状を考慮して他の処分の可能性はないのか」と発言。また別の委員は「一晩寝ても捕まってしまうようでは、お酒も飲めない」と述べるなど、同情的な意見が相次いだという。
しかし、事務局が「一律免職で、私情を挟む余地はない」と説明したことから、最終的には懲戒免職は承認されたという。
県教委は人事案件に関する委員会審議の傍聴は認めておらず、議事録も非公開だ。
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3月28日には県立山梨高の男性事務長(59)の飲酒運転が発覚した。その後、横内正明知事は「県職員の飲酒運転は免職」の原則を堅持する方針を示したが、これは知事部局に対して定められたもので、県教委とは別だ。
県教委は近く事務長の処分を検討する委員会を開く。その際、教職員の飲酒運転を原則免職と定めた指針についても議論が行われる見通しで、飲酒の悪質性の有無など新しい判断基準が示される可能性がある。
4月7日朝刊