第5部 今、法廷で<5>被害認定民事でやっと
知的障害の娘「おっぱいぎゅーされた」
2010年12月2日 読売新聞
「被告人は無罪」
2006年2月。強制わいせつ事件の控訴審判決が言い渡された。傍聴席の最後列で被害者の両親はうなだれた。「知的障害がある娘の証言は、信じてもらえないのか」
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「おっぱいぎゅーされた」
03年夏。千葉県内の特別支援学級に通っていた市立小6年の次女が、帰宅するなり、真っ赤な顔で自分の胸を両手でつかみ、40歳代の担任教諭から受けた性的被害を母親に訴えた。「こうやってされた」と、下着の中に手を入れるしぐさも見せられ、母親はショックで突っ伏して泣いた。警察に相談すると、「実際に被害を受けてないと、ここまで詳しく言えない。事実に違いない」と言われ、告訴した。
逮捕後一時、容疑を認めた教諭は、刑事裁判で全面否認した。11歳だった次女の知的レベルは年齢の半分ぐらい。供述の信用性が問われた。つらい日々の始まりだった。
母親は「娘には耐えられない」と訴えたが、次女への証人尋問が非公開で行われた。被告側から厳しい質問が飛んだ。尋問は1時間以上に及び、次女は混乱し、事実にないことまで口にした。被害の日時や場所の特定も困難だった。1、2審とも、次女の供述の信用性を否定。教諭の無罪が確定した。
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無力感に打ちひしがれる両親に、次女の3歳下で、11歳になっていた三女が真剣な表情で切り出した。「お姉ちゃんがウソをつかないのは、うちらが一番わかってる。最後まであきらめないでやろう」
障害者の問題に詳しい弁護士から民事裁判を打診されていた。「このままじゃ、終われないよね」。両親は覚悟を決めた。
06年5月、教諭と県、市に慰謝料など約2000万円の損害賠償を求めて千葉地裁に提訴。被告側は全面的に争う姿勢を示した。
民事判決は、刑事とは一転、被害の一部を認定、県と市に計60万円の支払いを命じた。胸を触られた被害について、母親に告白した状況が「真に迫っていた」と、信用性が初めて認められた。
さらに、市の控訴で始まった2審の東京高裁判決は今年3月、下半身を触られるなどした日時不明の性被害についても範囲を広げて認め、賠償金額を計330万円とした。
「性的虐待を受けた子どもの供述は揺れ、空想が交じりやすい」「知的障害者は日時の記憶が困難」との主張が受け入れられ、判決は〈被害の日時や回数について正確な記憶がなかったとしても信用性は否定されない〉と結論付け、〈(教諭の)行為は許し難い〉とまで言及していた。
「勝ったんですか」。高裁の原告席で、判決をのみ込めずに母親が振り向くと、弁護団の1人がうれし涙を流しながらメモを取っていた。両親は肩を抱き合った。「ウソじゃないと証明された」。被害から7年がたっていた。
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次女は高校を卒業し、東京都内の職業訓練施設に通う。今でも睡眠障害などに悩まされているという。
母親は記者に訴えた。「泣き寝入りしてきた知的障害者は多いと思う。法廷を、弱者を苦しめる場ではなく、救う場にしてほしい」
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参考資料
「冤罪・浦安事件」として被害者側を糾弾する謎のブログ
※削除されましたが、誰かが魚拓をとっていて下さいましたので、魚拓にリンクを張ります。ありがとうございます。