校長「指導力不足教員いる」 体面、温情で報告二の足
2011年12月14日午前8時49分 福井新聞
県内で「指導力不足」と認定され、研修を受けている教員は現在は一人もいない。県教委は「指導改善研修制度が4年目を迎え、対応が進んだ成果」と胸を張るが、県内の関係者は“黙認”と切り捨てる。「うちの学校には確かにいる」と明言する現職校長もおり、しわ寄せを受ける他の教員からは悲鳴が聞こえる。教員を再生する制度が有効に活用されないまま、学校現場に重くのしかかっている。(小島茂生)
■野放し状態
「すぐに横道にそれ、授業が進まない。特定の生徒をつるし上げて性格などをののしり、口答えするとキレる。まるでいじめ」。嶺北地方の中学校に勤務する40代の男性教員に対し、保護者の男性はため息交じりに話す。
子どもへの影響を考えて我慢してきたが、授業中に「お前が悪いのはお前の親が変だからだ」と言われたことでついに限界を超えた。校長に直訴すると「よく分かっている。注意はしているのだが…」と歯切れの悪い答えが返ってくるだけだ。
同じような現実を知る30代の小学教員は「悪く言えば野放し状態」と明かす。「行儀の悪い子どもがいても知らぬ顔で授業を続け、態度の悪い児童から強気に出られるとたじたじになる。校長はなぜ『指導力不足』と報告しないのか。多くの教員が不信を抱いている」と疑問を呈する。
■周囲に新たな負担
文部科学省の指針に従い、県教委が子どもへの適切な指導や授業ができない指導力不足教員の指導改善研修制度を導入したのは2008年度。全国的に教員の資質に厳しい視線が注がれる中でのスタートだった。
認定の仕組みは▽専門知識や授業技術の不足▽指導方法が不適切▽生徒指導、学級経営を適切に行えない―など本県独自の観点に照らし、8月と翌年1月に校長が該当する教員を市町教委、県教委に報告する。認定は大学教員や弁護士、医師らで構成する判定委が行う。
県内の認定者は08年度が2人、09年度は0人。10年度は5人いたが、今年8月に実施した調査では1人の報告もなかった。
しかし、嶺南地方の現職校長は、過去に指導力不足として報告した教員は1人もいないとしながら「うちの学校にも該当する教員はいる」と打ち明ける。「預かった教員は自分の学校で何とかしたいという見えがある。指導力不足で報告すれば補充はあるだろうが、その教員の人生を考えると温情もわく」
ただ、こうした教員を補助するには、他の教員に授業に入ってもらわねばならない。他の教員が教材研究や校務などの時間を削っている現状に「多忙な中で新たな負担をかけて申し訳ない」と感じている。
■教委の本音
県教委関係者は「教員が6千人近くいるのに、ゼロというのはあり得ない」と断言する。県教委や市町教委は問題のある教員を把握し、校長の力量などを見ながら一つの学校に集中しないよう配慮して配置しているのが現状。教員の絶対数が少ない小規模校では影響は決して小さくない。
この関係者は「学力テストの順位など聞き心地のいい部分に目がいきすぎ、仕事の本質を見失っている。指導力不足教員が多いことが報道されれば保護者の印象も悪く、数字上は少ないに越したことはないのが本音」と黙認の背景を語る。
福井市内の40代教員は「委員会や特別活動でも負担が回ってくるので正直きつい。それでも教員同士がカバーし合ってやっていくのは仕方のないこと」とあきらめ顔。ただ「最終的に影響を受けるのは子ども。校長も教委もそのことを第一に考えてほしい」と歯がゆそうに話した。
◆県教委は制度の有効活用を
指導力不足の教員が県内に一人もいないと聞いたとき、強い違和感を覚えた。これまで学校関係者や保護者たちから耳にしていた話とはギャップがあったからだ。
教育関係者に意見を聞くと、ほぼ全員が一言目に「難しい問題」と口をそろえた。ある学校関係者は「営業などと違い、教員の評価は数字で表すことができない。校長の主観に頼らざるを得ない」と言い「そこに見えや温情が入り込む余地がある」と指摘する。
その上で、たとえ問題のある教員を学校が抱え込んだとしても、担任を持たない補助教員などとして活用することで学校全体が回っていけば、学校経営上は問題がないから報告しないという理屈らしい。
問題なのは、こうした学校経営が、子どもたちと他の教員の犠牲によって支えられているという点だ。学校への保護者の不満や各教委への教員の不信感は根強く、指導改善研修制度そのものの信頼性が大きく揺らいでいると言える。
県教委は、すべての校長に市町教委と連携して指導力不足の指摘を徹底するよう促すとともに、認定プロセスの透明性確保と制度の有効な活用に全力を注ぐ必要がある。
◆指導改善研修制度◆ 本県では「指導力不足」と認定された教員に対し、県教育研究所や所属校での研修が課せられる。研修を受ける教員の能力や適性に応じて個別にプログラムを作成、指導案作りや授業研究、模擬授業などを行い、同研究所職員や管理職、県教委、市町教委の指導主事ら10人程度が手厚く指導に当たる。期間は6カ月で、最大2年で改善されなければ分限免職などの措置がある。昨年度に県内で認定された5人の教員は全員が現場復帰した。