テクノロジーでトップダウンに教育を破壊することはできない

テクノロジーでトップダウンに教育を破壊することはできない
TechCrunch Japan 2011年12月19日(月)13時45分配信

編集部注:ゲスト寄稿者のPatrick Gibbonsはラスベガスを拠点に教育の制度改革を中心に活動しているライター・研究者であるコンピューター技術が教室に進出してから30年、未だに与えた影響は殆どない。何百という「破壊的」な教育系スタートアップが出てきたが、教育史上最高のイノベーションは未だに黒板だ。これは起業家たちの責任ではない。イノベーションに対して事あるごとに抵抗してきた教育システムの問題だ。

K-12[幼小中高]教育技術スタートアップの多くが、教師と管理者をターゲットに生産性を高めるツールを提供している。授業プランの共有、採点簿、教育ツール、ホワイトボード等だ。Devin ColdeweyはTechCrunchの記事、『もし私が貧しい黒人の子供だったら』が、思いがけず教育とテクノロジーの貧しい真実に触れたの中で、これらのサービスを「実用的」だと言った。Coldeweyは、これらの実用的技術を活用するためには、教育にトップダウン的改革が必要であると結論を下した。彼はこれらのテクノロジーが教員や管理職の効率を高め、「過労の」現場担当者たちが、要員や資源が「悲しいほど不十分」な学校でその「大きすぎる」クラスを掌握できるようにすると、真摯に信じている。

残念なことに、トップダウンの「実用的」アプローチはいくつかのきわめて正当な理由によりうまくいかない。基本的に、教育機関は破壊(的改革)を望んでおらず、彼らはK-12公共教育に年間5970億ドルを費して、真の破壊を妨げている。

教育に革命を起こすために、起業家は教育に関する重要な統計データをいくつか理解する必要がある。実のところ、30年間の技術の進歩とイノベーションにも関わらず、アメリカの学校はより多くのリソースを使いながら同じ結果しか生み出していない。1959〜60学校年度から2007〜08年度の間に、生徒当たり予算は2741ドル(2009年のドル換算)から1万1134ドルへと増加している ― インフレ調整後306%増である。同じ期間に教員1人当たり生徒数は26人から15.3人へ、学校職員当たり生徒数は16.8人から7.8人へとそれぞれ減少している。

そして、Devinは公立学校に「殆どコンピューターがない」と信じているが、データが示すところによると、パソコン1台当たりの生徒数は、11998年の12.1人から2005年の3.8人に減っている。

予算が増え、教育が増え、生徒1人当たりのパソコン台数が増えているにも関わらず、K-12教育の成果は40年間停滞したままだ。ではなぜ、金も教員もテクノロジーも役に立たってこなかったのか。

アメリカの公教育は官僚と教育管理者によって独占状態にあり、そこでの彼らの行動は企業のCEOや起業家よりもソビエトの人民委員に近い。彼らは破壊を好まない ― あるがままの状態を好む。

ネバダ州クラーク郡(ラスベガスのある場所)で行った私の調査結果を例にとろう。全米で5番目に大きい学区のある地域である(運営予算は20億ドル以上!)。

2009年に私は当地の校長数名をインタビューした。ある校長は、新しいDellのパソコンを購入申請したところ地域官僚に却下され、理由は21インチモニターが付いていたからだったと話した。地域の規則では19インチより大きいモニターが禁止されていた ― しかしDellは21インチを19インチより安く販売していた。同じような不満を募らせた話がいくつもあった。

一度でも会社の経営に関わったことのある人なら、すぐに問題に気付くはずだ。校長の自分の学校の資源に対する権限が小さすぎるのだ。教員から教科書まであらゆる物が中央人民委員から配給される ― 承認に官僚数人(クラーク郡では最大7人)のゴム印が必要になることもある。公立学校における中央集権は、破壊を妨げる主要構成要素となっている ― この結果教員組合から営利企業へと人を送り込むことで、教育機関が同盟関係を結ぶことが許されてしまう。

そしてテクノロジーは、生産性向上やコスト削減の手段ではなくコストと見なされる。実際にはテクノロジーの利用によってコストは削減され、教員、管理者、中央人民委員らの必要数が減少する。馴れ合いとなった営利企業も、規模が大きく競争の少ない市場を好む。何百何千もの自立して競争力のある学校相手よりも「教育太り業者」に売る方が、簡単で安上がりだからだ。

言い換えれば、生産性を上げる真に破壊的なテクノロジーを売ることはできない ― 売れるのは両方のふりをするテクノロジーだけだ。

破壊的な教育系スタートアップは、公立学区相手に売ることを忘れた方がいい。商品を持っていくなら起業家的学校 ― つまり私立学校 、バーチャルスクール、チャータースクール、ホームスクールネントワーク、あるいは生徒に直接でもいい。これらの学校や団体は、親を説得して入学させることによってのみ存在しているから、改善の手段に飢えているのだ。

そして、チャレンジする用意ができたなら、質の高い先生たちにアクセスする手段を見つけることだ。悪しき教員を解雇することがほぼ不可能な国の一つである米国では、教員の質の格差は大きな問題だ。スタンフォード大学のEric Hanushekによると、良い教師による学習利得が平均1.5年であるのに対して、悪い教師の利得は平均0.5年にすぎにない。つまり、良い教師は悪い教師に比べて平均1年分多くを生徒に与えることができる。これに何年もの年数をかけることになる。

問題をボトムアップに解決しようと挑戦している教育系スタートアップは何十、何百とある。個別教育サービスのWizIQ、Udemy、BlueTeachなど(他にも数多くある)は、教師たちを生徒たちと繋ぐ。一方Student of FortuneやOpenStudyのようなピアツーピアの教育ネットワークがある。個別指導と適応学習(その生徒が最も不得意とする科目に対応するようにプラグラムが適応する)を組み合わせたスタートアップには例えばGrockitやSophia Pathwaysがある。さらにはコンピュータープログラミング技術を磨くためのプラットフォームを生徒に提供する、CodeAcademyのような特化したサービスもある。

そして、Khan AcademyはYouTubeで3000以上のレッスンを提供している無料サービスだ。Khanはクイズを組み合わせて、学生の能力を評価し、苦労している学生がいれば関連レッスンに送り込む。

これらのプログラムがすべて成功するわけではないが、彼らは崩壊した学校制度を迂回して、いつでもどこでも誰にでも教育サービスを提供しようとしている。これが教育を破壊する唯一の方法だ。

画像出典:Getty Images/Sean MacEntee

(翻訳:Nob Takahashi)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする