死んだハチ食べさせられそうに…大津の中学 また起きた陰惨いじめ

死んだハチ食べさせられそうに…大津の中学 また起きた陰惨いじめ
産経新聞 12月29日(木)12時28分配信

 大津市のマンションで今年10月、住人で市立中学2年の男子生徒=当時(13)=が転落死した。滋賀県警大津署は自殺の可能性が高いとみている。学校側は当初、「いじめは把握していない」としていたが、その後、生徒から聞き取り調査をした市教委は、男子生徒が死亡の約1カ月前から同級生に殴られたり、死んだハチを食べさせられそうになったりするいじめを受けていたことを明かした。陰惨ないじめはなぜ起き、学校側はなぜ見過ごしていたのか。(藤原直樹、加藤園子)

 ■「いじめられるタイプでない」

 男子生徒が転落したのは大津市内の14階建てのマンションで、男子生徒が通っていた中学校までは約100メートルしか離れていない。10月11日早朝、滑り台やブランコなどがある敷地内の広場であおむけで倒れているのが見つかり、間もなく死亡が確認された。

 遺書は見つかっていないが、大津署は、男子生徒は最上階から飛び降り自殺した可能性が高いとみて捜査。この時点ではいじめの事実は確認されていなかった。

 第1発見者となったマンションの管理人の男性は「ほかの住民から『バーンという大きな音がした』と聞いて、急いで広場に出てみたら男子生徒があおむけで倒れていた」と振り返った。すぐに119番通報し、心臓マッサージを試みたが、すでに意識はなかったという。男子生徒は道などで会うとあいさつしてきたといい、男性は「亡くなったのは本当に残念」と言葉を詰まらせた。

 マンション周辺の住民にも衝撃は広がった。近くに住む無職の女性(80)は「この近辺で転落死なんて聞いたことがない。何があったのか」と驚いた。近くの40代の女性も「男子生徒は真面目そうな感じだった。友人2、3人と、コンビニで買い物をし、遊びに行くところをよく見かけていた。友人がいないということはなかったと思う」と話した。

 男子生徒が通っていた中学校の校長(58)によると、男子生徒は卓球部に所属し、部活動には精力的に取り組んでいた。同じクラスの数人と特に仲がよく、友人宅に泊まりに行ったりふざけたりして、ごく普通の学校生活を送っていたという。

 校長は、市教委がいじめの事実を公表する前、男子生徒について「(死亡したことは)非常に残念で言葉が出ない」としたが、「孤立している様子はなく、いじめられそうなタイプには見えなかった」と述べていた。

 ■いじめの噂はあった

 男子生徒の死亡原因がわからないまま約3週間が経過した11月2日。大津市教委は、市役所で緊急記者会見を開き、男子生徒が死亡する前、校内でいじめを受けていた事実を明らかにした。

 市教委は10月17〜19日に全校生徒859人を対象に文書でアンケート。約8割の生徒が回答し、この中に転落死した男子生徒に対していじめが行われていたとの記述があったため、生徒たちに直接聞き取りを始めた。

 その結果、男子生徒が死亡の約1カ月前から、同級生数人に殴られたり、ズボンをずらされたりするいじめを受けていたことが明らかになった。ほかにも、死んだハチを食べさせられそうになる▽腕で首を絞められる▽昼食のパンを食べられる−などの行為があったことがわかった。

 こうしたいじめを行っていた数人の同級生は、聞き取りに「ふざけていただけで、いじめていたわけではない」と話したという。

 死亡した男子生徒の担任の男性教諭は9月以降、「男子生徒がいじめられている」との噂を別の生徒から聞いており、10月1日と5日に実際に、男子生徒が同級生とけんかしているような光景を目撃。死亡した男子生徒に直接「いじめられているのではないか」と問うと「大丈夫。同級生と仲よくしたい」と答えたため、それ以上は調査しなかったという。

 また、学校側も9月に、父親から男子生徒の金遣いについて2回にわたり相談を受けたが、父親が「息子には言わないでほしい」と話したことから調査をしなかった。

 記者会見した市教委の葛野一美・教育部次長は「担任の教諭はいじめの兆候に気付きながら、男子生徒の『大丈夫』との発言をうのみにしてしまった。市教委としても責任を感じている」としながらも、「転落死との因果関係は分からない」とした。

 一方で、「学校側の調査には限界がある」とし、いじめについてこれ以上調査しないとした。

 ■本当に限界?

 男子生徒の死が自殺と断定されたわけではない。いじめが原因で死亡したのかも不明だ。転落死したマンション周辺では、子供たちがボール遊びをするなど、日常の風景が戻っている。

 しかし、男子生徒の衝撃的な死と、陰惨ないじめを受けていたという事実は、関係者だけでなく、住民にも癒えない傷を残した。

 マンション近くを通りかかった主婦(55)は「自分の子供もいじめで不登校になったことがある。いじめられている子は自分から相談しにくい。保護者や学校が事前にきちんと理解して支えてあげるべきだったのではないか」と話す。

 大津市教委はいじめの事実を発表した後、再発防止策として、市立小中学校の臨時校長会で児童、生徒の少しの変化も見逃さないよう求め、学校と家庭の連携強化に努めることを決めた。

 だが、その発表からちょうど2週間後の11月16日、大津市と隣接する滋賀県高島市の市立中学校で逮捕者が出る「いじめ事件」が起きている。男子生徒を全裸にさせ、携帯電話で撮影したうえ、排泄(はいせつ)物を持たせたなどとして、県警が、強要と暴力行為処罰法違反の疑いで、同級生の3年の男子生徒3人を逮捕したのだ。

 大津地検は強要と暴力行為処罰法違反の非行事実で3人を家裁送致。大津家裁はうち2人については別の傷害の非行事実も含めて審理し初等少年院送致と決定、もう1人を保護観察処分にしている。

 この事件でも校長が、今年6月に加害生徒3人のうち2人が被害生徒をたたくなどしていたことを把握しながら、「いじめと認識していなかった」としている。

 大津市教委がいじめ調査を打ち切ったことに、転落死があったマンション近くに住む主婦(50)は「保護者や生徒がよくわからないままではよくない。市教委はもっとしっかりと調査すべきだ」と訴える。市教委がいうように本当に「学校の調査には限界がある」のだろうか…。

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