桜美林大教授・芳沢光雄 教員免許・採用の改革は緊急課題

桜美林大教授・芳沢光雄 教員免許・採用の改革は緊急課題
2012.7.28 07:44 産経新聞

 日本では、数学嫌いな生徒は多いが、生徒各自の学力を見抜く力と応用面の楽しい話題を多くもつ教員に指導されると、数学嫌いな生徒の意識が一変することがよくある。そのように、教員としての資質は生徒の姿勢に大きな影響を及ぼす。

 私は、小学校から高校までの教員研修会での講演を各地でよくお引き受けしているが、最近、大都市圏周辺での採用間もない学力不足教員の話題をしばしば耳にするようになった。「3つの角度が異なる二等辺三角形もある」と主張する小学校の教諭。計算の指導はできるものの、証明は仮定から結論を導くことも分かっていない中学校の教諭。高校の数学IIIをほとんど理解していない教諭の配属は、それを教えないで済む高校。このような話題は枚挙にいとまがないが、背景には大きく分けると教員免許制度と教員採用の点が2点ある。以下、順に考えてみよう。

 出生数が年200万人前後だった第2次ベビーブーム世代の人たちが大学に入学したのは平成2年前後である。そのほぼピーク時である3年の大学設置基準大綱化以降、大学数は逆に増え続け、3年が514校であったそれは現在、780校である。今の大学生が生まれた頃の出生数は年120万人台であり、私立大学の4割が定員割れの状態に至ったことは必然であろう。その結果、大学生の学力面での格差は「ゆとり教育」も手伝って一気に拡大した。ところが、教育実習や介護体験を別にすると、教員免許を取得するために必要な諸科目の単位取得は各大学に任されている。これでは、教員免許制度自体に疑問の目が向けられるのは当然だ。昨年秋には中央教育審議会の特別部会で、教員免許も医師などのように国家試験を経て取得する案が一部の委員から出されたように、教員の資質と能力の最低基準を国が保証する制度を早急に検討すべきだと考える。

 次に教員の採用に関する問題であるが、団塊世代や第2次ベビーブーム世代などの人口面での凹凸や理数系の授業時間を大幅に削減した「ゆとり教育」の見直しなどが影響し、現在は教員採用のピークである。13年の全国の小・中・高の公立学校教員採用者数は9416人であった。それが23年は2万5855人である。これを都道府県別に見ると、たとえば13年の秋田、東京、埼玉、大阪は順に127人、1117人、345人、268人であったが、23年のそれらは順に70人、2772人、1242人、1967人である。これらの数字から理解できるが、過疎化が進行している県と大都市圏周辺とでは、同一には論じられない。

 私は以上を踏まえて、教員採用に関して二つのことを緊急に提案したい。一つは、採用時の年齢制限は徐々になくなってきているが、今年の募集要項でも「誕生日が昭和48年4月2日以降」という条件が明記されているものが多くある。この条件を外して、いったんは教員の夢を捨てた第2次ベビーブーム世代の優秀な人材を発掘すること。一つは、故郷を愛する気持ちは尊いものであるが、「日本の将来を担う子供たちを地域とは無関係に全力で育てる」という意識改革を促すこと。実際、大都市圏の教員採用担当者は、地方での採用活動を積極的に進めており、私が東京理科大学大学院教授時代に指導した秋田県出身の優秀な者は、今は東京都の教員として活躍している。

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【プロフィル】芳沢光雄

 よしざわ・みつお 東京理科大学教授を経て現在、桜美林大学教授。理学博士。著書に「いかにして問題をとくか実践活用編」ほか。

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