<iPS臨床問題>森口氏の肩書全て誤り…本紙掲載記事5本
毎日新聞 2012年10月15日(月)21時11分配信
毎日新聞は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から心筋細胞をつくり、世界で初めて心臓病患者に移植したとの主張の大半が虚偽だった森口尚史(ひさし)氏(48)に関して掲載した記事5本について、その経緯などを検証した。いずれも森口氏の肩書を「米ハーバード大」の「研究員」や「客員講師」としていたが、ハーバード大は「99年〜00年の1カ月間、客員研究員だった」としており、少なくともこの点で記事に明らかな誤りがあった。
記事は、▽09年7月9日朝刊「肝がん細胞からiPS細胞」▽09年9月2日朝刊「肝がん細胞大半を正常化」▽10年2月24日朝刊「薬品投与でiPS細胞」▽12年2月22日朝刊「肝臓がん薬に糖尿病薬」▽12年8月4日朝刊「卵巣凍結でがん治療後妊娠」。これらの記事は計3人の記者が執筆していた。検証は、記者への聞き取りのほか、学会発表や科学誌への掲載の有無などを確認する形で行った。
いずれも端緒は、森口氏からの電話やメールによる取材の依頼だった。09年の記事2本は、海外の学会で「発表予定」の段階の内容だった。当時森口氏に発表したことを確認したが、15日現在、科学誌に掲載されたことが確認できたのは、7月の記事の一部だけだった。
10年の記事は、森口氏が都内で開催された学会で口頭発表したのを記者が会場で取材していた。12年2月の記事は、科学誌に掲載された内容を紹介したもの。同8月の記事は科学誌を明記していないが、既に公表された科学誌の内容を紹介していた。
森口氏の名刺には「ハーバード大」と明記したものもあった。既に科学誌に載った森口氏の論文にもハーバード大所属と紹介されたものがあり、記者たちはこれらを信用し、ハーバード大に確認していなかった。
一方で記者2人は、森口氏の英会話力から、「ハーバード大を研究拠点にしている」との説明に疑問を感じていた。うち1人は、森口氏を知る研究者から「簡単に信用しない方がよい」と忠告されたことがあった。
今回のiPS細胞の臨床研究問題では、この3人の記者のうちの2人に、森口氏から別々に「売り込み」があったが、いずれも内容が疑われ、毎日新聞は記事にしなかった。この他にも、森口氏から取材依頼がありながら、「内容が信用できない」「内容が専門的すぎて、一般の新聞向けでない」などと判断して記事化しなかった情報が少なくとも3件あった。