教師3年目で突如「雇い止め」通告…私立高校で相次ぐ非正規雇用の理不尽な待遇〈AERA〉
AERA dot. 2019/7/23(火) 8:00配信
私立高校の非正規教員が悲鳴をあげている。一方的な雇い止め通告などの現場の理不尽さから、労働組合へ駆け込む人も少なくないという。教員の「使い捨て」を前提にしている体質は、今後改善するのだろうか。
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「来年度の採用はないと思ってくれ」
昨年9月5日の放課後、に勤務していた30代の男性教員は校長室に呼ばれると、校長から思ってもいなかったことを告げられた。今年3月いっぱいでの「雇い止め」を通告されたのだ。
「目の前が真っ白になり、一瞬何も考えられなくなりました」
と男性は振り返る。憧れの教員になって3年目だった。
は、男性によると、正規雇用の教員を「専任」、非正規雇用で年度ごとに契約更新するが、担任や部活などを任され、専任と同様の職務を担う教員を「有期専任」、非正規雇用で年度ごとに契約更新し、担任や部活などは任されない教員を「常勤」、授業のコマ数で働く教員を「非常勤」と呼んでいるという。
男性は「有期専任」。会社員生活を経て教員になろうと決めた時、正規雇用での募集は見つからなかった。
男性が見た同校の募集要項には、「2年目に専任採用の判断をし、4年目からは専任教諭として採用される道が開かれている」と記載されていたという。採用されると、専任を目指した。
2年目から学級担任を持ちバレーボール部とダンス部の顧問も兼ね、専任以上にやってきたという自負があった。男性が着任した際、同校には2人の有期専任がいたが2人ともその後、専任になれた。男性も当然、4年目から専任になれると信じていた。
それが具体的な説明のないまま「雇い止め」を通告されたのだ、と男性。
「どうしてですか。私は学校に何か害になるようなことをしましたか」
男性が問うと校長は、
「総合的に判断した結果。何が悪いとは言えない」
としか答えなかったという。男性は言う。
「私が学校に損害を与え懲戒処分を受けるようなことをやったとか、学校経営が厳しいとか、合理的な理由があれば納得できたかもしれません。しかしそれもなく、あまりに一方的です」
男性はに加入し、1月から学校側と団体交渉を重ねてきたが平行線だった。使い捨てを前提にした体質をなくし、教育の現場を少しでもよくしたいと話す。
同校を運営する学校法人は代理人弁護士を通じて、本誌の取材にこう回答した。
「現在係争中の裁判に関連する事項であり、学園としては司法の判断を仰ぐことを最優先と考えております。専任教員としての資質等を慎重かつ適正に判断させて頂いた結果について、原告側に理解して頂けなかったことは大変遺憾に思っております」
私立高校は全国に約1300校ある。公立高校とは違い、各校が建学の精神に基づき、先進的で独創的な教育を展開できるという特徴がある。
その教育の担い手となる教員がいま、不安定な雇用や低賃金に苦しんでいる。格差社会の象徴ともいえる非正規の教員が増えているからだ。
4月には、
「私学は民間企業と同じ営利目的。その搾取構造が露骨になってきています」
と話すのは、私学教員ユニオン代表の佐藤学さん(32)だ。
佐藤さんによれば、私立の教員は、冒頭の学校の例で説明したように専任教員を頂点とするピラミッド構造になっている。専任の門戸は狭く、非正規雇用は教員全体の4割近くを占め、公立校の倍近いという。
「構造は、一般企業が雇用の調整弁として非正規雇用を増やしていったのと同じ。景気の変動や経営状態にあわせ、バッファー(緩衝材)として使える非正規雇用が世の中に拡大していったのと軌を一にしています」(佐藤さん)
昨年4月に発足した同ユニオンには毎月10件ほどの相談がくる。20代、30代の非正規雇用の私立校の教員が中心で、雇い止めや残業代不払い、長時間労働、精神疾患に追い込まれた教員もいるという。(編集部・野村昌二)
※AERA 2019年7月22日号より抜粋