【加害教師のいま】捜査関係者が明かす 神戸教師いじめ「激辛カレーの傷害事件について書類送検する予定」
文春オンライン 2020/2/18(火) 11:42配信
神戸市立東須磨小学校の教諭4名が同僚の男性に対し、激辛カレーを無理矢理食べさせるなどのいじめ行為に及んでいた問題。発覚から4カ月が経ち、現場となった東須磨小学校でも例年通りの受験・卒業シーズンを迎えているが、学校を去った加害教師たちの近況が「週刊文春デジタル」の取材により明らかになった。
「教師いじめ」問題は発覚後、メディアが連日大きく報じた。教師が同僚教師を羽交い絞めにして激辛カレーを無理やり食べさせる動画は衝撃的で、大きな社会問題に発展した。
そのあおりを受けたのが、神戸市教育委員会総務課の調整担当係長Aさん(39)だ。Aさんは教育委員会の会議の運営や教育委員との連絡調整を担当しており超過勤務が多かった。そして発覚から約4カ月後の2月9日、Aさんは自宅付近の橋から飛び降り、自殺したのだ。
2年前、芦屋市内に1戸建てのマイホームを購入したAさんは、妻と幼い子供2人の4人暮らし。近所の評判も良かった。
「会うと必ず丁寧に挨拶してくれる、感じのいい方でした。休みの日は家族揃って車で買い物に出かけたり、子供を近所の公園に連れて行って自転車の練習に付き合ったりと、パパとしても頑張っていた。もともと地元もこのあたりのようで、芦屋の町のこともよくご存じでした」(近隣住民)
遺書には「市教委の仕事がしんどい」
Aさんは「市教委の仕事がしんどい」などの仕事の苦悩と家族への別れを手紙に綴り、2月9日の未明から行方がわからなくなっていた。午前4時、家族が110番通報し、巡回していた芦屋署の警察官が、午前6時ごろに東灘芦屋大橋で歩いていたAさんを発見。反対車線から声をかけると、Aさんは突然走り出し、側壁を乗り越えて高さ25メートル以上の橋から飛び降りた。橋下のフットサル場の地面に激突し、命を落としたという。
「飛び降りた橋は、Aさんが暮らしていた芦屋の町を一望できる場所。Aさんはよほど追い詰められていたのでしょう。翌日の午後からも会議が控えていた」(地元紙記者)
ある教育委員は「我々の職責として言うべきことは言わないと」
市政関係者が振り返る。
「ただ『教師いじめ』が発覚する前から、Aは追い詰められていました。昨年9月頃にはAの様子がおかしいのではないかという意見もあった。神戸市の教育現場では児童の怪我が続出した『組み体操問題』や、『いじめの隠蔽』などの問題が山積みだったんです。教育委員会への世間の目は冷ややかで、Aは教育委員からの焦りや憤りをぶつけられる立場だった。教育委員からの当たりの強さに、『グチグチと嫌味をいわれる』などと家族に愚痴を漏らしていたようです。
それでもAは仕事に前向きでした。『自分しかやれる人間はいないし、頑張らないといけない』といった内容の日記も見つかっています。しかし教師いじめ以降は残業時間が増え、退社が深夜0時を越えることもあって追い詰められていったようです。今年になり、職場の仲間にも体調が悪いことを伝えていましたが、まさかここまでとは、誰も気がつかなかった」
ある教育委員は、Aさんの死を悼み取材にこう答えた。
「我々の職責として、言うべきことは言わないといけない。しかし、みんながAさんに対してどうこう言ったということではなく、Aさんを経由して教育長や教育次長に物申したいことを連絡していた。ただAさんに仕事が集中していたのは皆が知っていることです」
生徒だけでなく、教師の人気もガタ落ち
東須磨小学校にもいまだ事件の余波が残っている。地元の飲食店店員が語る。
「東須磨小は100年以上の伝統をもつ小学校で、事件の前は本当に評判がよい学校だった。公立にもかかわらず、遠方からわざわざ『東須磨小に通わせたい』と、越境入学させる親がいるほどでした。でも、今年は『どうやって東須磨小を避けるか』に苦心しているらしく、入学希望者も激減しているようです。在校生の親御さんも、集まっては『子供を転校させたい』という話をしています。3学期になって隣町に引っ越しをした生徒もいるんです」(同前)
問題を起こした加害教師たちは現在どうしている?
教師の採用にも影響が出ている。神戸市教育委員会が実施した2020年度の小学校教員採用試験で、約170人の募集に対して合格者は142人。募集枠を30人近く割り込んだ。データが確認できる2003年度以降では最多の不足数となった。
「教育委員会は定員割れについて『教員の質を重視するため人数をあえて絞った』と言い訳のような説明をしていましたが、人気がないのは明らか。東須磨小の件は教師志望者の減少に拍車を掛けている」(地元紙記者)
問題を起こした加害教師たちは現在どうしているのか。昨年10月末、神戸市は有給休暇中の加害者4人の教師に対し、給与を差し止める分限休職処分を下している。これを受け、これまで2人の教師が弁護士をつけて不服を申し立てているのだ。
いまだに加害教師たちは罪を擦り付け合っている
「加害教師2名は、それぞれ『私より○○先生のほうが酷いことをした』と、罪を擦り付け合うようなことを言っている。自分たちは主犯じゃないと、4人が同列に扱われていることに不満を抱いているようです。被害者に対する謝罪の言葉はあるものの、取って付けたような物言いで、心から反省しているとは到底思えません」(同前)
昨年10月に被害教師(男性)が提出した被害届はすでに受理され、現在も慎重に捜査が進められている。
「いじめ事件に対する外部調査委員会の報告が上がる3月を待って、4人の加害教師のうち、複数名が書類送検されると見られている。いじめ行為は100件以上にのぼるが、発端となった激辛カレーを無理矢理食べさせた一件のほか、激辛ラーメンを食べさせた件、紙筒で叩いた件など、数件の傷害を事件化する予定だ」(捜査関係者)
加害教師たちが重ねた愚行は教育現場への不信を招いた。その罪は決して軽いものではなく、加害教師たちには猛省が求められる。