「チクった」事態悪化 教諭が授業中に加害生徒呼び出す

「チクった」事態悪化 教諭が授業中に加害生徒呼び出す
岐阜新聞Web 2020/12/17(木) 16:07配信

 岐阜県内に住む高校1年の男子生徒。最初にいじめに遭ったのは中学3年の時、同じ班の仲間からだった。担任教諭は相談に乗ってくれたが、授業中に全員の前で加害生徒を呼び出したことが、状況を悪化させた。「あいつがチクった(密告した)」。うわさは伝言ゲームのように広がった。休み時間になると決まって数人が教室の後ろに集まり、男子生徒本人だけが分かる悪口やうわさ話を繰り返した。やがて男子生徒を標的にするような雰囲気がクラスの一部にでき、嫌がらせが日常化した。

 それでも、男子生徒は周囲との関わりを保ち続けようとした。仲が良かった子も嫌がらせをしてきたが、加害生徒が近くにいなければ話し掛けてくれる仲間もいた。暴力や金銭の要求など直接的ないじめではなかったため、仲間から離れる行動は何とか踏みとどまることができた。

 だが、嫌がらせ自体がやむことはなかった。次第に周囲の視線を「キツい」と感じるようになり「教室に向かう渡り廊下の手前で、足が止まってしまった」(男子生徒)。初夏、班で行動した修学旅行を最後に、教室へ行けなくなった。今は通信制高校を3年で卒業するための支援を行う民間教育施設に通っている。「あの時、先生がみんなに分からないように対応していてくれたら」。胸に残るわだかまりは今も消えていない。

 「いつもいる仲間関係の中で発生」「常に秩序を保とうとして、おのおのが内部で起こっている様々な出来事を顕在化しないよう巧妙に工夫」…。昨年7月に岐阜市立中学校3年の男子生徒=当時(14)=がいじめを苦に自殺した重大事態を巡り、市教育委員会の第三者組織・いじめ問題対策委員会による報告書は、いじめの性質についての見解をこう記した。思春期特有の心理やいじめの特性を、一連の調査は浮き彫りにしている。

 報告書は、被害生徒の「心情」をくみ取らず、一人で判断した教諭の危機感の欠如を指摘し、「児童生徒の感じる被害性」に着目する必要性を提言。何が生徒に起こっているかに気付き、子どもを理解した対応ができるかどうかが、教員の役割として求められるという。

 中部学院大教育学部の益川優子准教授(45)=青年心理学=は「思春期を迎える中学生は、親からの精神的な自立を試みる時期。つらい出来事があっても、周囲には打ち明けたくない心理が働く」と指摘する。

 いじめが疑われる問題が発生した場合、大人が関わる際の要点として「被害者、加害者の自尊心が傷つかないよう水面下で問題を消滅させるのが大前提」と強調する。当事者間で解決できれば、被害者がその後も教室にいやすくなるからだ。

 子どもの心に、大人はどう寄り添っていくのか。益川准教授は説く。「中学生にとって学校生活は毎日がサバイバル。生徒の本当の気持ちを聞く姿勢を崩さないでほしい」

       ◆

 多感な中学生の仲間関係といじめ。文部科学省が10月に公表した2019年度の児童生徒の問題行動・不登校調査で、県内の小中高校と特別支援学校でのいじめ認知件数は1万962件(前年度比2568件増)。認知の基準を厳しくした13年度以降で初めて、1万件を超えた。企画「いじめと向き合う」第3部では、いじめを経験した当事者やその親への取材で見えた、中学生の心理や対人関係づくり、子どもの本音に向き合う。

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