これは「指導」か「事件」か 角界に輩出「相撲名門高」体罰の“すれ違い”

これは「指導」か「事件」か 角界に輩出「相撲名門高」体罰の“すれ違い”
産経新聞 2013年2月11日(月)11時30分配信

【衝撃事件の核心】

 「期待」を裏切られた教師は、行き過ぎた「体罰」に走った。相撲の強豪校として知られる兵庫・淡路島(洲本市)の私立柳学園高校で、相撲部顧問の男性教諭(34)が3年で主将だった元男子生徒(18)の顔や頭を殴る体罰を加えたとして、兵庫県警洲本署に暴行容疑で書類送検された。柔道女子日本代表や大阪市立桜宮高校などスポーツ現場での暴力・体罰がクローズアップされるが、今回の体罰の一因には「生徒が後輩部員をいじめたことへの指導」(同校)との側面があったという。だが、生徒は「指導」を「拷問」と受け取り、そこに信頼関係はなかった。同校幹部が「高校相撲界の汚点」と話す今回の体罰の裏で、何が起きていたのか。(岡野祐己)

 ■教諭「生徒に裏切られ」

 同校は相撲部や男女ボート部がインターハイ(全国高校総体)や国体に数多く出場し、兵庫県内屈指で淡路島きってのスポーツ強豪校として知られる。これまで相撲部からは3人が大相撲に入門し、そのうち2人は幕下力士まで昇進。まさに高校相撲界の名門校だ。

 今回、体罰を受けた男子生徒は尼崎市出身で、中学時代から相撲で活躍。顧問の教諭にスカウトされて同校に入学し、他の相撲部員とともに寮生活を送っていた。小柄ながらメキメキと実力をつけ、昨年6月には国体兵庫選抜チームの5人に選出。教諭が大学に推薦状を書くなど奔走し、関西の相撲強豪私大への入学も内定していたという。

 一方、教諭は兵庫県内の高校、大学で相撲部に所属し、平成14年、同校に国語科教諭として赴任。15年から相撲部顧問と、掃除や食事時間などを取り仕切る寮長を務めていた。教諭は厳しい口調で生徒らを叱責する場面もあったが、「規律を重視する堅い性格で、生徒に手をあげるようなことはなかった」(同校関係者)といい、同校の内部調査では部活動中の体罰は確認されていないという。

 だが、教諭は手塩にかけて育てていた男子生徒に2度の体罰を加えた。体罰発覚後、学校の聞き取りに対し「(男子生徒に)裏切られた心境だった」と吐露したという。

 ■後輩へのいじめ行為

 教諭が兵庫県警洲本署に書類送検されたのは2月1日。送検容疑は平成23年末、寮で男子生徒が女子生徒にみだらな言葉をかけ、からかったことを注意するために顔を平手でたたき、24年7月には、生徒が後輩部員を投げ飛ばしてけがをさせたことを寮で家族に謝罪する際、後頭部を2回殴ったとしている。同署によると、教諭は「言うことを聞かなかったので殴った」と容疑を認めているという。

 この問題の発端は昨年5月下旬。生徒が寮の炊事場で、同部2年の後輩部員とトラブルになり、空だきした鍋を押しつけて右脇にやけどをさせた。同年7月11日には相撲部の練習場で、同じ後輩部員を投げ飛ばし、顔を踏みつけて全治3週間のけがを負わせた。さらに5日後の同16日には、後輩の顔を電気コードで数回殴ったという。

 翌17日、後輩部員は顔を真っ赤に腫らして登校した。驚いた教諭が問いただすと、「消しゴムを拾うときに自分で机にぶつけた」と、嘘の説明をしたという。18日に後輩部員が初めて病院に行ったことから、教諭は「おかしい」と不審に思い、男子生徒を寮の自室に呼び出した。この直前、生徒は母親に「2時半から拷問タイムやから電話出れません。あいつにかけて電話代わっても、あいつのことやから自分のいいたいこといわせへんようすると思う」と携帯メールを送ったとされる。生徒は後輩にけがをさせたことを話したが、教師はこのときは体罰を加えなかった。

 教諭が体罰に走ったのは19日夜。寮で生徒が後輩に謝罪するため、生徒の家族同士の話し合いの場が設けられた。後輩は「先輩に何度もいじめられ、死にたいと思っていた」と口にし、教諭は「お前、そこまで追いつめていたのか」と、生徒が後輩に頭を下げた際、左手で後頭部を2度殴った。これが送検容疑の一部となった。

 どんな理由であれ、体罰は許されない。それでも、教諭は手を出してしまった。

 ■すれ違う思い

 「俺が何とかする」。教諭は19日の話し合いの後、男子生徒にそう言ったという。後輩部員の両親の怒りは収まらず、生徒の退学処分を訴えていた。しかし、教諭は男子生徒の“将来”を考慮し、退学は避けたかったとみられる。教諭は20日以降、後輩部員の自宅に何度も通い、「生徒は反省している。許してあげてほしい」と、親を説得していたという。

 だが、すでに事態は収拾がつかない状態だった。19日の話し合いの前に後輩部員は洲本署を訪れ、顔を踏まれてけがをしたとして被害届を提出。学校内のトラブルは刑事事件に様相を変えていた。

 男子生徒は7月30日、傷害容疑で同署に逮捕され、神戸家裁尼崎支部は9月13日、生徒に保護観察処分を下した。

 しかし、これだけで問題が解決したわけではなかった。今度は男子生徒が9月末、教諭から体罰を繰り返し受けたとして、同署に被害届を提出したのだった。その結果、教諭は今年2月1日に書類送検されるに至った。

 同校の吉田任利校長は、体罰を受けた生徒の被害届提出について「生徒からすれば『先生は守ってくれると言っていたのに、自分は逮捕された』と思ってしまったのではないか」と推測する。生徒は復学することもできず、昨年11月に転校した。教諭は昨年7月から同部の指導を外れ、今後の検察庁の処分を見極め、指導に復帰させるか決めるという。

 教諭と生徒との間に信頼感ではなく不信感が生まれ、双方にとって不幸な結末に終わった今回の問題。スポーツ強豪校の教育現場で部活動や生活指導の難しさを浮き彫りにしたともいえる。

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