有識者会議の「体罰」具体例 これでは参考にならない
産経新聞 2013年6月27日(木)7時30分配信
文部科学省の有識者会議が、学校の運動部活動の指導指針をまとめ、「体罰」の具体例も盛り込んだ。
大阪市立桜宮高校バスケットボール部の男子生徒が自殺した問題を受けて体罰防止の徹底を図ることが目的だが、例示が指導現場の一助になるとは思えない。
指針は、信頼関係があれば体罰も許されるとの意識は認められないと断じたが、許されない指導例に掲げたのはこうだ。
熱中症の危険があるのに水を飲ませず長時間走らせる。受け身をできないように投げる。「参った」の後も攻撃を続ける。殴る、蹴るや、パワハラ、セクハラも含まれている。これらはただの暴力であり、いじめであり、犯罪行為である。信頼関係の有無を問うまでもない。
バレーボールで技能向上のためにレシーブ練習を繰り返すことや、柔道の初心者に受け身を反復させることは認めた。遅刻を繰り返す生徒を試合に出さないことも「許される指導」とした。当たり前だ。
指針は勝利至上主義を否定するとともに、勝利を目指すことや記録への挑戦は「自然なこと」として容認した。勝利を求める中でこそ育つ技量や精神もある。
運動部活動に、過度の勝利至上主義と体罰とが結びつく悪習がはびこってきたのは事実だ。悪習は断ち切らなくてはならない。そのためには参考にならない例示の羅列よりも、体罰がいかに無用で不必要なものであるか科学的根拠を示し、強制によらない指導法を確立すべきだ。体罰は生徒に肉体的、精神的な痛みを残すばかりか、現代のスポーツでは、勝利にも結びつかないはずだ。
一方で、人の道を外れた生徒がいて、言葉が通じないとき、涙を流しながら手をあげねばならない場面はある。「愛のムチ」を肯定する限り体罰はなくならないと、識者がいう。新聞がいう。テレビがいう。
誰に全否定されようが、処分を覚悟で殴るべきときはある。(論説副委員長・別府育郎)